いなご)” の例文
塩梅あんばい酔心地よいごこちで、四方山よもやまの話をしながら、いなご一ツ飛んじゃ来ない。そう言や一体蚊もらんが、大方その怪物ばけもの餌食えじきにするだろう。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
店頭に立ち止まつた配達人の姿を見ると、きりぎりすの孫に當るいなごのやうに痩せた今の若い女將おかみが飛んで出て、配達人に何か言つてゐた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
黍畑きびばたけ、桑畑などから、それを見つけて、附近の部落の腕白者や、洟垂はなたれを背負った老婆としよりなどが、いなごのようにぞろぞろ出て来て
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さうすると、かの音吐朗々たる不釣合な聲も、或日或時或機會、いなごを喰ひ野蜜を甞め、駱駝らくだの毛衣を着て野に呼ぶ豫言者の口から學び得たのかと推諒する事も出來る。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
たのしみては「楽し」と詠み、腹立てては「腹立たし」と詠み、鳥けば「鳥啼く」と詠み、いなご飛べば「螽飛ぶ」と詠む。これ尋常のことのごとくなれど曙覧以外の歌人には全くなきことなり。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
いなごが嗤ふほどのペシミスティックな子供たち! 汚れた足が落ちる。
希臘十字 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
草刈くさかりかまのがれて確乎しつかそのかぶすがつた嫁菜よめなはな刺立とげだつたえだかゝりながらしつとりとあさうるほひをおびる。れたいねにほひ勘次かんじはないた。いなごがぱら/\とあしひゞきれていねわたつてにげた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
稲刈りてにぶくなりたるいなごかな 子規
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
いなごの飛ぶよ、と光を放ちて、小路の月にひらめきたるやりの穂先霜を浴びて、柄長く一文字によこたえつつ
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さうとすると、かの音吐朗々たる不釣合な声も、或日或時或機会、いなごを喰ひ野蜜をめ、駱駝の毛衣を着て野に呼ぶ予言者の口から学び得たのかと推諒する事も出来る。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
いなごとぶ音杼に似て低きかな
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
インバネスを着て、薄鼠色の中折を左の手に持つて、いなごの如くしやがんで居る男と、大分埃を吸つた古洋服の鈕を皆はづして、蟇の如く胡坐あぐらをかいた男とは、少し間を隔てて、共に海に向つて居る。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
湖のなぐれに道をめぐると、松山へ続くなわてらしいのは、ほかほかと土が白い。草のもみじを、嫁菜のおくれ咲が彩って、枯蘆かれあしに陽が透通る。……その中を、飛交うのは、琅玕ろうかんのようないなごであった。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここにも飛交ういなごみどりに。——
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)