蜈蚣むかで)” の例文
蜈蚣むかでの、腕ほどもあるのがバサリと落ちて来たり、絶えずかさにあたる雨のような音をたてて山ひるが血を吸おうと襲ってくる。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そこで、筒をひらくと、一尺ばかりの蜈蚣むかでが這い出して、旅人のからだを三度廻って、また直ぐに几の上にかえって、暫くして筒のなかに戻った。
蜈蚣むかで衆のことなら存じおる。戦時にありては物見使番、平時にありては細作となって、敵国に潜入、隠密をつとめ、腕を揮ったということじゃ」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
琵琶の湖の龍神だの、三上山の蜈蚣むかでだのが、出て来たらどうする気だろうか。女人に手足を縛られて、真暗な穴ぐらへ曳き込まれはしないだろうか。
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
琉球人の伝説に、毒蛇ハブと蜈蚣むかでは敵でハブ到底蜈蚣にかなわない。因って次の呪言を唱えるとハブ必ず逃げ去る。
川を隔てゝ薄桃色に禿げた雞冠山を眺め、湖水のくくれて川となるあたりに三上山みかみやま蜈蚣むかでい渡る様な瀬田の橋を眺め、月の時を思うてややひさしく立去りかねた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それは、右は山左は海の、狭い崖端を、蜈蚣むかでか何かのやうにのたくつて行く軽便鉄道である。それを考へると、彼は電車に乗らうとした足を、思はず踏み止めた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
侍女二 長う太く、数百すひゃくの鮫のかさなって、蜈蚣むかでのように見えたのが、ああ、ちりぢりに、ちりぢりに。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうして岸には長いオール蜈蚣むかで見たいにそろえた細長の独木舟オックダアが幾隻か波に揺られて、早くも飛び込むと持場持場を固めるオロチョンギリヤークの青年たちも勇ましかった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
良ッちゃんが、あんな男の嫁さんになるかと、思うただけで、背中がゾコゾコッとするわ。蜈蚣むかでと、蚯蚓みみずと、毛虫とが、一緒に襟元に飛びこんだみたいよ。おう、気色きしょくる。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
彼の田原藤太が射た大蜈蚣むかでの住みかだと思うと、黒くしげった山の様を物凄く感じた。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
すこし工合が惡くなつたんで、お醫者さんに見てもらふと、お酒のためぢやなくて、七卷半の、三上山の大蜈蚣むかでではないが、お腹一ぱいに條虫さなだむしの大きな奴が蟠踞してしまつてたんだつて——
夏の夜 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
そういうわけでなかなか世事に通じていた。たとえばどこそこでは雷公かみなり蜈蚣むかでのお化けをき殺した。どこそこでは箱入娘が夜叉のような子を産んだ。というようなことなど好く知っていた。
風波 (新字新仮名) / 魯迅(著)
漁から椰子蜜採りから椰子縄作りから麺麭パンの実取りや独木舟造りに至る迄、ありとあらゆる労働が彼に課せられる。こう仕事が多くては、無数に手の生えている蜈蚣むかででもり切れまいと思われる程だ。
南島譚:01 幸福 (新字新仮名) / 中島敦(著)
沙に匍ふ小さき蜈蚣むかでわが汽車は洮児タオル河より更に西する
大地の亀裂が蜈蚣むかでのようなひびからだんだんに拡がるあいだから、吹きだした地下水がざあっとかしいだ方へながれてゆく。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
旅人これを顧みこたうれば、夜必ずその棲所とまりに至り人を傷つく、土人枕の中に蜈蚣むかでを養い、頭に当て臥し、声あるを覚ゆれば枕をひらくと蜈蚣く蛇に走り懸り
「甲州流の兵学に、伝授番外といたしまして、蜈蚣むかで衆忍術のありますこと、殿にもご承知と存じまするが」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それは、右は山左は海の、狭い崖端がけはなを、蜈蚣むかでか何かのようにのたくって行く軽便鉄道である。それを考えると、彼は電車に乗ろうとした足を、思わず踏みとどめた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そこで、ここらの地方の宿屋では小箱のうちに蜈蚣むかでをたくわえて置いて、泊まり客に注意するのである。
蜈蚣むかでにゃあかないませんや、瀬多の橋へあらわれりゃ、尋常の女でしょう、山の主が梅干になって、木樵きこりめられたという昔話がありますッてね、争われねえもんです。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だが、あの美しい水の底には恐ろしい龍神が棲んで居るし、湖のふちにある三上山みかみやまと云うところには、その龍よりももっと大きい蜈蚣むかでが棲んで居る事を、そなたは多分知らないのだろう。
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
明良洪範めいりょうこうはん』二四には、天正十七年四月、秀吉初め男子(名は棄君)を生む、氏郷累代の重器たる、秀郷蜈蚣むかで射たる矢の根一本たてまつる、この子三歳で早世したので
いったい二人は何者だろう? 蜈蚣むかで衆の忍術家、一人は琢磨小次郎であり、一人は茣座右門らしい。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
躍然やくぜんとしてもたげたるそのうすの如きこうべのみ坂の上り尽くる処雲の如き大銀杏おおいちょうこずえとならびて、見るがうちに、またただ七色の道路のみ、獅子の背のみながめられて、蜈蚣むかでは眼界を去り候。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これも従来気付いた人がないようだが、秀郷が竜に乞われて蜈蚣むかでを射平らげたてふ事も先例ある。
悲鳴をあげて逃げ惑ふ女たちは、水車の歯にかかりてね飛ばされ候やう、倒れてはげ、転びては遁げ、うづまいて来る大蜈蚣むかでのぐるぐると巻き込むる環のなかをこぼれ出で候が
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「憎い奴だ! 火柱! 鉄砲足軽百人を出し、撃って取ろうとしたところ、狙うことさえ出来ないそうだ。変幻出没するそうだ。おっ! 出没で思い出した。蜈蚣むかで衆を呼べ、蜈蚣衆を!」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『酉陽雑俎』(蜈蚣むかで退治を承平元年と見てそれより六十八年前に死んだ唐の段成式著わす)三に、歴城県光政寺の磬石けいせき膩光つやしたたるがごとく、たたけば声百里に及ぶ、北斉の時
はるかなる向の坂をいまうねり蜿りのぼり候首尾しゅびまったきを、いかにも蜈蚣むかでと見受候。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
蜈蚣むかで衆の忍術家、琢磨小次郎と茣座右門の、二人の死骸を後にして、首と胴とから捕り縄を垂らし、火柱の主がノロノロと、南に向かって歩き出したのは、それから間もなくの事であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『日次紀事』に初寅の日鞍馬寺で福授けの蜈蚣むかでを売ったとあるなど、魔王でも悪虫でも拝めば無害で役に立ちくれると信じての事で、世に近隣の小言を顧みず、ペスト流行にもかかわらず
「やれもう、こんな原ぢやもの、お客様、きつねも犬も通りませいで。きりがかゝりや、あるかうず、雲がおりりや、はしらうず、蜈蚣むかでもぐればいなごも飛ぶわいの、」と孫にものいふやう、かえりみて打微笑うちほほえむ。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それは蜈蚣むかでの大群なのであった。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
して、提灯ちやうちんあぎとに、すさまじいかげうごめくのは、やら、なにやら、べた/\とあかあをつたなかに、眞黒まつくろにのたくらしたのはおほきな蜈蚣むかでで、これは、みやのおつかはしめだとふのをかねいた。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
鼠すなわち見えず、憎むべきの物を以てまた能く人のために患を防ぐは怪しむべしとあるを思い出で、もしさる事もやとふすまかかげ見ればいと大いなる蜈蚣むかでくぐまりいたりければすなわち取りて捨てつ。