ひとりむし)” の例文
バサリと音して、一握ひとにぎりの綿が舞うように、むくむくとうずまくばかり、枕許の棚をほとんどころがって飛ぶのは、大きな、色の白いひとりむしで。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
如何にそれが、光に於けるひとりむしに似てゐるか。
はためきめぐるひとりむし
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
そのほか、小座敷でも広室ひろまでも、我家のやみをかくれしのぶ身体からだはまるで鼠のようで、心は貴方の光のまわりにひとりむしのようでした。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
月にも、霧にも、ながれの音にも、一座の声は、果敢はかなきひとりむしのやうに、ちら/\と乱るゝのに、娘の笑声わらいごえのみ、水に沈んで、月影の森に遠く響いた。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
深夜ひとりむしともしびちたのを見て、思い着いて、我が同類の万太と謀って、渠をして調えしめた毒薬を、我が手に薬の瓶に投じて、直ちに君の家厳に迫った。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一杯いっぱい雛壇ひなだんのやうな台を置いて、いとど薄暗いのに、三方さんぽう黒布くろぬの張廻はりまわした、壇の附元つけもとに、流星ながれぼし髑髏しゃれこうべひからびたひとりむしに似たものを、点々並べたのはまとである。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
団扇うちわにしては物寂しい、おおきひとりむしの音を立てて、沖の暗夜やみ不知火しらぬいが、ひらひらと縦に燃える残んの灯を、広いてのひらあおあおぎ、二三ちょう順に消していたのである。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
店一杯に雛壇ひなだんのような台を置いて、いとど薄暗いのに、三方を黒布で張廻した、壇の附元つけもとに、流星ながれぼし髑髏しやれこうべひからびたひとりむしに似たものを、点々並べたのはまとである。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この行燈で、巣にからんだいろいろの虫は、空蝉うつせみのそのうすもの柳条目しまめに見えた。灯にひとりむしよりも鮮明あざやかである。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あまつさ辿たどむか大良だいらたけ峰裏みねうらは——此方こちらひとりむしほどのくもなきにかゝはらず、巨濤おほなみごとくもみね眞黒まつくろつて、怨靈をんりやう鍬形くはがた差覗さしのぞいてはえるやうな電光いなびかりやまくうつた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「私ですよう引」と床に沈んで、足許の天井裏に、電話の糸を漏れたような、夢の覚際に耳に残ったような、胸へだけ伝わるような、お蔦の声が聞えたと思うと、ひとりむしがハタと落ちた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)