ながむし)” の例文
あたりが翛然ゆうぜんと、暗くなった。その中に、ただ、ながむし死骸しがいだけが、前よりもいっそう腹のあぶらを、ぎらつかせているのが見える。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何と、お行者ぎょうじゃ、未熟なれども、羽黒の小法師こほうし、六しゃくや一じょうながむしに恐れるのでない。こゝがだ。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それを見ると、気丈な猪熊いのくまのばばも、さすがに顔をしかめて、あとへさがった。そうして、その刹那せつなに、突然さっきのながむし死骸しがいを思い浮かべた。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二人の別れたあとには、例のながむし死骸しがいにたかった青蝿あおばえが、相変わらず日の光の中に、かすかな羽音を伝えながら、立つかと思うと、止まっている。……
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)