ぶよ)” の例文
里近いだけにぶよの多いのには困ったが、あたりの草を薙ぎ倒して風上から火を放ったので、少し落ち着いて食事が済せた。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
われは暑に苦み、この變化なき生活にみて、殆ど死せる如くなりき。風少しく動くと覺ゆるときは、蠅ぶよなんど群がり來りて人の肌を刺せり。
その夕方も、又雉子の祟りか、野村君だけぶよにやられて、足を腫らして、すこし參つたやうな顏をしてゐたよ。
夏の手紙:立原道造に (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
となえつつ、自由にどこの家にも入って、自在鉤じざいかぎのあたりまでもいぶしまわったからで、ヨガとは日中のカすなわちぶよに対して、夜の蚊をそういうのである。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
だからぶよにくわれながら懐中電燈をもって叢のなかを明るく照らす、懐中電燈の明りは叢のなかを青写真のように映し出し、茎と葉との宮殿がならんで見える。
螽蟖の記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
大豆だいずにはくちかきむしの成虫がうざうざするほど集まった。麦類には黒穂の、馬鈴薯ばれいしょにはべと病の徴候が見えた。あぶぶよとは自然の斥候せっこうのようにもやもやと飛び廻った。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
とうさんが幼少ちひさ時分じぶん晝寢ひるねをしてますと、どうかするとこのぶよはれることがりました。そのたびに、お前達まへたち祖父おぢいさんがおほきなてのひらで、ぶよこらしてれました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ぶよす、蚋が螫すわ。どうじゃ、歩き出そうでないか。たまらん、こりゃ、立っとッちゃあらち明かん、さあさきね、貴公。美人は真中まんなかよ、わし殿しんがりを打つじゃ、早うせい。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
禍害わざはひなるかな、偽善なる学者、なんぢらは人の前に天国を閉して、自ら入らず、入らんとする人の入るをも許さぬなり。盲目めしひなる手引よ、汝らはぶよし出して駱駝らくだを呑むなり。
如是我聞 (新字新仮名) / 太宰治(著)
馭者たちは、無数の遊糸いとゆうのようなぶよがあの蛇神復讐女神フュアリーに代って自分たちの周りをぐるぐる𢌞っている中を、ゆったりと自分たちの鞭の革紐の先を繕っていた。側仕そばづかえは馬の脇を歩いて行った。
赤くいだ阿房峠が低く走り、その上に乗鞍岳の頂上が全容をあらわした、左の肩の最高峰朝日岳には、雪が縦縞の白いを入れている、小さなぶよが眼の前を、粉雪のように目まぐるしく舞う
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
ぶよのむれ夕日にきほふしまらくは赤松の幹も暮れがたみあり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
なかなか好い気持です。ただ、すこしぼんやりしていると、まだ生れたての小さなぶよが僕の足をおそったり、毛虫が僕の帽子ぼうしに落ちて来たりするので閉口です。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
木から落ちる山蛭やまびるに、往来ゆききの人に取りつくぶよに、つよい風に鳴る熊笹くまざさに、旅するものの行き悩むのもあの山間やまあいであるが、音に聞こえた高山路はそれ以上の険しさと知られている。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
コップの中にはぶよに似た小さい虫が一匹浮いて、泡のうえでしきりにもがいていた。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
ぶよのむれ夕日にきほふしまらくは赤松の幹も暮れがたみあり
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ぶよでどんなだろうねえ。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山蛭やまびるぶよなぞの多い四里あまりのけわしいみねの向こうから通って来たのもその山道である。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その谷間の雑木林はやっと芽を出したばかりだが、今日なんぞ、そこで焚木を拾っていたら、ぶんとぶよらしいものがいきなり飛んできて、私の顔のまわりにいつまでもつきまとっていた。
卜居:津村信夫に (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
向日葵は円蕋えんずゐ黒しまだ暑く子とかがみゐてかゆぶようつ
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「ええ、はえだの、ぶよだの……そういうものは木曾路きそじの名物です。産馬地うまどこせいでしょうね」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
木から落ちる山蛭やまびる往来ゆききの人に取りつくぶよつよい風に鳴る熊笹くまざさ、そのおりおりの路傍に見つけるものを引き合いに出さないまでも、昼でも暗い森林の谷は四里あまりにわたっている。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
て、ちがふもの——はいぶよはいはうるさがられ、ぶよこはがられてます。ぶよひとをもうまをもします。あのながくて丈夫ぢやうぶうま尻尾しつぽ房々ふさ/\としたは、ぶよひ拂はらのにやくつのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
荒い笹刈ささがりにはぶよ藪蚊やぶかを防ぐための火繩ひなわを要し、それも恵那山のすその谷間の方へ一里も二里もの山道を踏まねばならないほど骨の折れる土地柄であるが、多くのものはそれすらいとわなかった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二○ ぶよ
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)