ひし)” の例文
ひしぎつけられた少年の、なかば、物狂わしくなった叫びとも聞かれたが、宗清は何か凡事ただごとでない感動に打たれたらしく、はっと答えぬばかり正直な態度で、すぐ鞍から跳び降りた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何で、物に指をくわえて、物の下にひしがれてよいものぞ。——物の上に在って、天の下の物を自在に用いるはずの人間が、物の下に置かれなどしたら、もうおしまいというものぞよ……と
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
或る時は、芙蓉ふようの花のように汗ばんだ皮膚を、或る夜は屏風びょうぶをへだてていても漂ってくる黒髪のにおいを。——年久しく、磐石ばんじゃくもとひしがれていた愛慾の芽はそうして、にわかに彼の胸に育てられていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)