とら)” の例文
平次とガラツ八は、近頃江戸中を荒し廻る怪盜、——世間で『千里のとら』と言ふのを、小石川金杉水道町の路地に追ひ込んだのです。
これからはいよ/\おたみどの大役たいやくなり、前門ぜんもんとら後門こうもんおほかみみぎにもひだりにもこわらしきやつおほをか、あたら美玉びぎよくきずをつけたまふは
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
夜のうちにとらの目のごとくひらめく火繩ひなわは、彼らの頭のまわりに円を描き、イギリスの砲列のすべての火繩桿ひなわかんは大砲に近づけられた。
オニなども今ではつのあってとらの皮をたふさぎとし、必ず地獄に住んで亡者もうじゃをさいなむ者のごとく、解するのが普通になったらしいが
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
神谷は猫を飼ったことがあるので、そういう舌の恐ろしさをよく知っていた。兇暴きょうぼうな肉食獣の舌、猫かとらか、でなければひょうの舌だ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
水滴すいてき。陶器。窯は恐らく瀬戸。寸法、縦二寸一分、横巾二寸九分、厚さ八分。模様は竹にとら浮彫うきぼり。型。鉄砂入。日本民藝美術館蔵。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
足の向くがまゝ芝口しばぐちいで候に付き、堀端ほりばたづたひにとらもんより溜池ためいけへさし掛り候時は、秋の日もたっぷりと暮れ果て、唯さへ寂しき片側道。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
動物はいないかと聞いたら「とら尾長猿おながざる、おしまい、finished」といった。たぶん死んだとでもいう事だろうと思った。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
と、どこから登って来たか、爛々らんらんと眼を光らせたとらが一匹、忽然こつぜんと岩の上におどり上って、杜子春の姿をにらみながら、一声高くたけりました。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「牛や象を見たまえ、皆菜食党だ。体格からいったら獅子ししとらよりも優秀だ。肉食でなければ営養が取れないナゾというのは愚論だよ。」
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
聞け! とらうそぶいて、谷これにこたえている。秋の曲を奏すれば、物さびしき夜に、つるぎのごとき鋭い月は、霜のおく草葉に輝いている。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
「健康診断を致しますから、八日正午、左記の病院にの状持参にておいで下さい。」とあって、とらもんの或る病院の名が書かれていた。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
倉庫の前のレールには貨車かしゃが三つほど引きこまれていました。荷物は、ぞうやライオンやとらやその他の動物といっしょに、まれて行くのです。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
親父は廓の遊び人で、紋日もんびとらという手のつけられないあぶれ者だが、死んだ母だけは、今も温かく甘く涙ぐましく、お綱の胸に残っている。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひき雌雄しゆうとらがううとうなりながら、一つおりのなかで荒れ狂っているような思い出が、千穂子の躯を熱く煮えたぎらせた。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
あるいは「仇」「敵」という意味の「あだ」は昔は「あた」で人麿ひとまろの歌の「あたみたるとらゆる」の「あた」を清音の仮名で書いてあります。
古代国語の音韻に就いて (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
落ちようとする月が一段明るくなった光の中を、清艶せいえんな容姿で、物思いをしながら出て行く源氏を見ては、とらおおかみも泣かずにはいられないであろう。
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
とらさいもばかやつらだし、あの毛唐けとうもばかやつらだ、こんなに肝煎きもいったこたありゃしねえ、ええつまんねえ、出べえや、なあ、出ちまうべえよ先生」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
文明は個人に自由を与えてとらのごとくたけからしめたる後、これを檻穽かんせいの内に投げ込んで、天下の平和を維持しつつある。この平和は真の平和ではない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
猛狒ゴリラや、獅子しゝや、とらるい數知かずしれずんでつて、わたくしやう無鐵砲むてつぽう人間にんげんでも、とてもおそろしくつてけぬほどだから、誰人たれだつて足踏あしふみ出來できませない。
よく見ると、近所の動物園のおりの中にゐるとらさんが、つめをとんがらかして、お鼻の先にくひついてゐました。お猫さんは、びつくりして目がさめました。
お鼻をかじられたお猫さん (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
かじの清さんに、七番の坂本さん、二番のとらさん、それに、ぼくといった真面目まじめな四五人だけでしたが——をみると、森さんは、真っ先に、ぼくをよんで
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
道翹だうげうかゞめて石疊いしだゝみうへとら足跡あしあとゆびさした。たま/\山風やまかぜまどそといてとほつて、うづたかには落葉おちばげた。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
僕がときとしてこのユダヤの神を感嘆することがあるとしても、それはとらなどを感嘆するのと同じ態度でなんだ。
積不善の五六千円に達せしころ、あだかも好し、畔柳の後見を得たりしは、とらに翼を添へたる如く、現に彼の今運転せる金額はほとんど数万に上るとぞ聞えし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
子息むすこの代理に来たおとら婆さんがそこへすわり直して言った。先祖の代から本陣に出入りする百姓の家のものだ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「うんにゃ。も少し待で。又すぐ晴れる。おらも弁当食ふべ。あゝ心配した。おらとらこ山の下まで行って見で来た。はあ、まんつがった。雨も晴れる。」
種山ヶ原 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
この権衡つりあひうしなはれたる時においむなづくしを取るもおそからずとは、これも当世たうせう奥様気質也おくさまかたぎなりとらまきの一節也せつなり
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
(七〇)同明どうめい相照あひてらし、(七一)同類どうるゐ相求あひもとむ。くもりようしたがひ、かぜとらしたがふ。(七二)聖人せいじんおこつて萬物ばんぶつる。
それどころか自分の腕一本、あるひはもも一本もぎとつて、飢ゑたとらにさつさと投げ与へさへするでせう。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
なんでもねこ天竺てんじくとら子孫しそんで、人間にんげんのために世界中せかいじゅうわるけもの退治たいじするんだといばっていたそうだ。」
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
動物園のおぢさん「あるときしろ夏服なつふく巡査じゆんさが、けんなんかでこのとらをおどかしたことがありました。それからといふものしろふく巡査じゆんさるとおこります」
ことにことしは干支えと戊寅つちのえとらにちなんで清正きよまさとら退治を出すというので、組屋敷中の者はもちろんのこと、うわさを耳に入れた市中の者までがたいへんな評判でした。
すつかりとらになりながらも、蟒の横暴を懲らしてやらうといふ肚で、横つちよから野呂が聲をかけた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
叛乱はんらんに参加したのは、近衛歩兵このえほへい第三連隊・歩兵第一、第三連隊・市川野戦砲やせんほう第七連隊などの将兵の一部で、三宅坂みやけざか桜田門さくらだもんとらもん赤坂見附あかさかみつけの線の内側を占拠せんきょ
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
おそしひて云張んと思ひければ否々いへ/\おちなく吟味仕つりし所全く意趣いしゆ有て惣内夫婦を切害せつがいせし趣き白状仕つり其上爪印まで相濟候なりと云に大岡殿イヤサ其所が所謂いはゆるとら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これも土人が弓をひきしぼり、とらきばをむき出したまゝ、いつまでも同じ姿勢をつゞけてゐました。
のぞき眼鏡 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
……牛魔王一匹の香獐こうしょうと変じ悠然ゆうぜんとして草をくらいいたり。悟空ごくうこれを悟りとらに変じけ来たりて香獐を喰わんとす。牛魔王急に大豹だいひょうと化して虎を撃たんと飛びかかる。
それから、巫女たちの眼が、花の冠のかげでキラキラ光って、花の冠は黒っぽくしたいわ。とらの皮や、さかずきも、忘れないでちょうだい。——それにきんだわ、金をどっさりね
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
人がとらを殺すと狩猟とい、紳士的な高尚な娯楽としながら、虎が偶々たまたま人を殺すと、兇暴きょうぼうとか残酷とかあらゆる悪名を負わせるのは、人間の得手勝手です。我儘わがままです。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
また字を書いたのでは、わし獅子ししとらりゅう、嵐、魚、鶴、などと大体凧おおだこの絵や字は定まっている。
凧の話 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
けものを見ても分かる、とら獅子ししくまなどのごとき猛獣は年々その数が減じつつある。もし統計を取ることが出来れば、彼らの減少率のはなはだ迅速じんそくなることを示すであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ちょうど、その時分、とら門際もんぎわたつくちに工部省で建てた工部学校というものが出来ました。
そして大きな百貨店で、首の動く張子はりことらだとか、くちばしでかねをたたく山雀やまがらだとか、いろんなめずらしいものを買い集めて、持っていたお給金を大方おおかたつかいはたしました。
海からきた卵 (新字新仮名) / 塚原健二郎(著)
その代り、ねこを描けとかとらを描けとか、こちらから命令すれば、実に立派なものを描きます。
愚助大和尚 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
二の烏 獅子ししとらひょう、地を走る獣。空を飛ぶ仲間では、わしたか、みさごぐらいなものか、餌食を掴んで容色きりょういのは。……熊なんぞが、あの形で、椎の実を拝んだ形な。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
キンちゃんのかわりに、散髪夫さんぱつふとらさんというのが、ちゃんとアブラ虫を指揮して競走をやらせていた。経営者側のキンちゃんも虎さんも、だいぶんもうかっているらしい。
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
りゅうなら竜、とらなら虎の木彫をする。殿様とのさま御前ごぜんに出て、のこぎり手斧ちょうなのみ、小刀を使ってだんだんとその形をきざいだす。次第に形がおよそ分明になって来る。その間には失敗は無い。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
たとへばワーテルローの陣に雷が落ちて将軍級のもの、ネーあたりが撃たれて死んだと云つても、雷をば角の生えたとらの皮の犢鼻褌ふんどしをした生物とはいかにしても聯想が向かない。
雷談義 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
道端には淡紅たんこうの花を簇開ぞくかいする小灌木「しもつけ」がまだ咲残り、帯紫たいし色の鐘状花しょうじょうか蛍袋ほたるぶくろや、とらがちょいちょいその間にまじる。「がくうつぎ」が白い花をつけて灌木の間をいろどる。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)