薬玉くすだま)” の例文
旧字:藥玉
いや、そう思っていたら、六条河原の柳の枝に、焼けていない鳥羽蔵の首だけが、ぶらんと、薬玉くすだまみたいに、葉柳の中から枝垂しだれていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ことに此頃流行の何玉何々玉といふ類、まるで薬玉くすだまかなんぞのやうなのは、欧羅巴ヨーロッパから出戻りの種で、余り好い感じがしないが
菊 食物としての (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
けば/\しい金蒔絵きんまきえ衣桁いこうだの、虫食いの脇息きょうそくだの、これ等を部屋の常什物にして、大きなはい/\人形だの薬玉くすだまの飾りだの、二絃琴にげんきんだの
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
中央の太き柱は薬玉くすだまおよび小旗をって飾られ、無数の電灯は四方あたりに輝きて目映まばゆきばかり。当夜の料理は前壁に対せし一列の食卓に配置さる。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
絢爛けんらん薬玉くすだまを幾すじつらねたようです。城主たちの夫人、姫、奥女中などのには金銀珠玉をちりばめたのも少くありません。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ、黒い河水の表面に、南瓜かぼちゃとも薬玉くすだまとも見える円い物がひとつ動くとも漂うともなく浮かんでいるだけ——。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
三年めの正月が近づき、香料を袋に入れた薬玉くすだまが五色の糸で飾られ、柱から美しい造花にまもられて垂れた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ファンから貰ったかあるいは貰った感じのなになにさんと書いた可愛い薬玉くすだまとか、その他少女の好みそうな小さな玩具が、いかにも大事そうに置いてある。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
彼女かれは四角に畳んだれ手拭で幾たびかうるさそうに叩きつけると、高い島田の根が抜けそうにぐらぐらと揺らいで、紅い薬玉くすだまのかんざしに銀の長いふさがひらひらと乱れてそよいだ。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
緋と水色の縮緬でこしらへた薬玉くすだまの簪ももつてゐた。お国さんはなにか新しいのを買つてもらふと自慢してみせておきながらよく見ようとすれば袂へかくしたりして人をらせる。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
つまみの薬玉くすだまかんざしの長い房が頬の横でゆれて、羽織をきないで、小さい前かけ位な友禅ゆうぜんちりめんの小ぶとんに、緋ぢりめんのひものついたのを背にあてて、紐を胸でむすんでさげていた。
外に小さな箱に入れて、立てかけたのもありますし、小さな硝子の簪などは、幾本かを一緒に筒に立ててあります。大きな撮細工つまみざいく薬玉くすだまに、いろいろの絹糸の房を下げたのが綺麗です。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
その家は公園から田原町たわらまちの方へ抜ける狭い横町であったがためだという話である。観客から贔屓ひいきの芸人に贈る薬玉くすだま花環はなわをつくる造花師が入谷いりやに住んでいた。この人も三月九日の夜に死んだ。
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして卓子の上と彼女の帯の薬玉くすだま模様とに、視線を往き来さしていた。
道化役 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
今日は美しく作った薬玉くすだまなどが諸方面から贈られて来る。
源氏物語:25 蛍 (新字新仮名) / 紫式部(著)
やどり木の薬玉くすだまかがる春あさき欅の雨も見の親しかも
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「うるさいのね、さあ、これでいいの」彼女は柚木が本気に自分を見入っているのに満足しながら、薬玉くすだまかんざしの垂れをピラピラさせて云った。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ほっそりした姿で、薄い色のつまを引上げ、腰紐を直し、伊達巻をしめながら、襟を掻合かきあわせ掻合わせするのが、茂りの彼方かなたに枝透いて、すだれ越に薬玉くすだまが消えんとする。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「うるさいのね、さあ、これでいいの」彼女は柚木が本気に自分を見入っているのに満足しながら、薬玉くすだまかんざしの垂れをピラピラさせて云った。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
お孝が一声応ずるとともに、崩れた褄は小間を落ちた、片膝立てた段鹿の子の、浅黄、くれないあらわなのは、取乱したより、蓮葉はすはとより、薬玉くすだまふさ切れ切れに、美しい玉の緒のもつれた可哀あわれ白々地あからさま
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さそくのたしなみで前褄まえづまを踏みぐくめた雪なす爪先つまさきが、死んだ蝶のように落ちかかって、帯の糸錦いとにしき薬玉くすだまひるがえると、こぼれた襦袢じゅばん緋桜ひざくらの、こまかうろこのごとく流れるのが、さながら、凄艶せいえん白蛇はくじゃの化身の
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)