菽麦しゅくばく)” の例文
どうか菽麦しゅくばくすら弁ぜぬ程、愚昧ぐまいにして下さいますな。どうか又雲気さえ察する程、聡明そうめいにもして下さいますな。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この時余が驚いた事は、漱石は、我々が平生へいぜい喰ふ所の米はこの苗の実である事を知らなかつたといふ事である。都人士とじんし菽麦しゅくばくを弁ぜざる事は往々この類である。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
(——尊いかな紅顔の白骨、老いを馬骨にかぞえて菽麦しゅくばくに生きんよりは、死して青史の花と散らん)
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
思想を忖度そんたくし得ないのも勿論の事では有るが、シカシ菽麦しゅくばくを弁ぜぬ程の痴女子ちじょしでもなければ自家独得の識見をも保着ほうちゃくしている、論事矩ロジックをも保着している、処世の法をも保着している。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
菽麦しゅくばくを弁じないというわけではなく、お感じが鈍いというにとどまり、まだ知恵が出きらないのかも知れない、もう少し発達すれば人並みになるのだろう、まるっきり馬鹿扱いにはできないのだ。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)