臘梅ろうばい)” の例文
今朝は臘梅ろうばいの花がしぼんでいるのに心づいて、侘助椿わびすけつばきに活けかえようと思って行ったら、あの時と同じ所にあの鍵が落ちていた。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
売り払った懸物が気にかかるから、もう一遍いっぺん見せて貰いに行ったら、四畳半の茶座敷にひっそりと懸かっていて、その前にはとおるような臘梅ろうばいけてあったのだそうだ。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やあ驚いた、あの枝はもう咲きますな、さすがにお手入れが良いだけあって、この臘梅ろうばいはいつも半月早い、——庭木では誰にもひけを取らぬと云う瀬沼せぬま老が、この臘梅には音を
嫁取り二代記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
僕の好きな山椿やまつばきの花も追々盛りになるであろう。十日ばかり前から山茱黄やまぐみしきみの花が咲いている。いずれも寂しい花である。ことに樒の花は臘梅ろうばいもどきで、韵致いんちの高い花である。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それ臘梅ろうばいの雪中にその蓓蕾はいらいを破るは一陽来復を報ぜんがためなり。今日の世界にかくのごとき社会の生ずるはこれ将来政治の変動を予知せしめてこれが予備をなさしめんがためなり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
袖垣そでがきのところにある、枝ぶりのいい臘梅ろうばいの葉が今年ももう黄色くむしばんで来た。ここにいるうちに、よく水をくれてやった鉢植えの柘榴ざくろけやき姿なりづくったこずえにも、秋風がそよいでいた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
新しい僕の家の庭には冬青もちかや木斛もっこく、かくれみの、臘梅ろうばい、八つ手、五葉の松などが植わっていた。僕はそれらの木の中でも特に一本の臘梅を愛した。が、五葉の松だけは何か無気味でならなかった。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
十畳の廊下外のひさしの下の、井戸のところにある豊後梅ぶんごうめも、黄色くすすけて散り、離れの袖垣そでがき臘梅ろうばいの黄色い絹糸をくくったような花も、いつとはなし腐ってしまい、しいの木に銀鼠色ぎんねずいろ嫩葉わかば
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)