翡翠かわせみ)” の例文
落葉が舞った。飈風つむじかぜに乗るように振袖はふっと浮いてと飛んで、台座に駆上ると見ると、男の目には、顔の白い翡翠かわせみが飛ぶ。
「しめたッ——」と三位卿、翡翠かわせみうおをさらったように、それをつかんで飛び立ったが、とたんに、目をつけた万吉が、横合から引っくって
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藍色の肌に不規則な雲型の斑点を浮かせて翡翠かわせみの羽に見るあの清麗な光沢を出しているのが一番上等とされている。
冬の鰍 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
○梅にうぐいす、竹にすずめ、などいふやうに、柳に翡翠かわせみといふ配合も略画などには陳腐になるほど画き古されて居る。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
翡翠かわせみの羽をひろげたようであるが、水が絶えず流れているので、透き徹っている、二の池へ来ると、岩には白花の石楠花が、もう咲き散ったが、落葉松のひょろりとせた喬木が
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
それは、まったく翡翠かわせみくいの上から魚影をうかが敏捷びんしょうでしかも瀟洒しょうしゃな姿態である。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その他、猩々しょうじょうの鼻やひょうの爪、翡翠かわせみの死体、鶴の抜け羽と種々のものをもらいに行くが、翡翠の死体を黒焼きにして飲むと肺病がなおるとか、動物園でも死にしだい塩漬けにしておくそうだ。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
またインドで曙光しょこう神アスヴィナウは、日神スリヤその妃サンニアと牡馬牝馬に化けて交わり生んだので三輪の驢車に乗り、日神自身は翡翠かわせみ色の七頭の馬に一輪車を牽かせて乗ると類似して
沼の上には翡翠かわせみが、時々水をかすめながら、こいしを打つように飛んで行った。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それを何ぞや小児が餅菓子もちがしを鑑定するように、いたずらに皮相の色彩に誘惑せられて、選択は当を失するのみならず、ついに先生のいかりを買うに至っては、翡翠かわせみ無智浅慮むちせんりょまことあわれむにえざるものがある。
私がじっと釣竿つりざおを出していると、一羽の翡翠かわせみが来てその上に止った。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
翡翠かわせみの紅一点につゞまりぬ
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
翡翠かわせみでしょう。」
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
『知る知らぬに関わらず、御出府の儀は、強く世間にひびいて居ります。何やら、翡翠かわせみこずええて、じっと、魚の姿を見ておる姿のように……』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その内に、翡翠かわせみの背らしいのが、向うで、ぼっと大きくなり、従って輪郭りんかくおぼろになったが、大きくなったのは近づくので、朧になるのは、山から沼の上を暮増くれまさるのである。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
深いところは翡翠かわせみ色に青く、浅いところも玉虫色に雨光りがしている、川に産まれた岩魚は、水の垢から化して、死ぬると溶けて、もとの水に帰るかとおもうまでに、水底に動かないでいる
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
が、彼だけは、独り水を離れた樹の枝にとまって水を眺めている翡翠かわせみのように、傍観者の顔つきにも見える。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
通り雨は一通りあがったが、土は濡れて、冷くて、翡翠かわせみの影が駒下駄をすべってまた映る……片褄端折かたづまはしょりに、乾物屋の軒を伝って、紅端緒べにはなおの草履ではないが、ついと楽屋口へ行くさま
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いつもの朝のとおり、るり色のつばさをひるがえして、扇縄おうぎなわの水の手へとんできた。そして、翡翠かわせみがもつあの長いくちばしで、水にむハヤというちいさな魚をねらいにりた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
孔雀くじゃくみたいな、あの、翡翠かわせみみたいな、綺麗な鳥が来て、種をこぼして行きました。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼のひとみは、翡翠かわせみが水底をのぞいたときのように、じっと、光秀のおもてを見ていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
友染ゆうぜんきれを流した風情で、黄昏たそがれ翡翠かわせみが一羽。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
びらっと、色羽の征箭そやが飛んだと見えたのは、水を離れた翡翠かわせみだった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
互いに翡翠かわせみみたいな鋭い眼でねらっていた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翡翠かわせみ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)