ばち)” の例文
もつとも信心の衆は、加持祈祷をして貰つたと言つちや金を持つて行く。が、鐵心道人はどうしても受取らねえ。ばちの當つた話で——」
……(桔梗ヶ池の奥様とは?)——(お姉妹きょうだい……いや一倍お綺麗きれいで)とばちもあたれ、そう申さずにはおられなかったのでございます。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ほーら! いってたの、うちでも岡本さんと。今ごろ陽ちゃんきっとまいっていてよって。少しいい気味だ、うちへ来ないばちよ」
明るい海浜 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ばちが当つたら、そのばちをも薄茶にいて飲んでしまふがよい。茶人は借金の証文をさへ、茶室の小掛物こがけものにする事を知つてゐる筈だから。
「たとい叔父さんが引っ張り出したにしても、雷に撃たれたのは災難じゃあないか。自分たちの身状みじょうが悪いから、ばちがあたったのさ。」
蜘蛛の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ははは、おかしいようなことでございますが、なかなかおかしいことではないんで、うっかり七兵衛とおっしゃるとばちが当りますよ」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
十六の時置去にしたお賤はどうしたかと案じていても、親子でありながら訪ねる事も出来ないというのはみんなばちと思って後悔しているのだよ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「なんということをするだね? そんなことするとばちが当たりますぜ。おまえさん。大明神の顕然あらたかなのを知りなさらんのかね?」
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
食料くひものしがるなんちごふつくばりもねえもんぢやねえか、本當ほんたうばちつたかりだから、らだらかしちやかねえ、いやまつたくだよ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
りますの。これは皆神様のおばちだと存じます。自分でいたした事のむくいだからいたし方がございません。ほんに/\お恥かしい。
「大喜びでございますよ、りっぱな奥さまに呼んでいただくのですもの、喜ばないでどうするものですか、ばちがあたりますよ」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
どんな罪を犯してそんなばちを受けたのだ。お父様は今朝けさ濃紅姫が家を出る時、たった一目お前等二人に会わせてやりたかった。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
神慮しんりょをおそれぬばちあたり、土足どそく、はだかの皎刀こうとうを引っさげたまま、酒気しゅきにまかせてバラバラッと八神殿しんでん階段かいだんをのぼりかけた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さあ、そこらで、みんな行って、ごろた石をひろっておいで、このばちあたりなけだものがているうちに、おなかにつめてやるのだから。」
「へへッ、肺病のばちあたりめが、結構ないただきものを残して捨ててけつかる。十等めし一本を食い余すなんて、なんという甲斐性かいしょうなしだ!」
(新字新仮名) / 島木健作(著)
吐きながら、ごしんぞといっしょに自火で焼け死んだそうだが、金のあるに任せて勝手なことばかりしたから、ばちが当ったようなもんでしょう
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「ああ、ああ、こんな苦しい目エに遇うのんもみんな姉ちゃんのばちやなあ。……これで死んだら姉ちゃんかってもう堪忍してくれるか知らん」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「しかたねえ、一人じめにしようとしたばちさ、俺はそんなことはしねえ、お前たち二人に手つだってもらったんだ、分け前はちゃんとやるよ」
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ぢや私もおつさんの言ふことをきかないで、油断したばちとあきらめて、お前さんにはれてしまひませう。けれども私には年よりの母がゐる。
孝行鶉の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
いつも自分じぶん一人ひとり子持こもちになどなつてわりがわるいのだといふやうなかほをしていらつしやるほんたうにばちがあたりますよ。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
おッとッと、そう一人ひとりいそいじゃいけねえ。まず御手洗みたらしきよめての。肝腎かんじんのお稲荷いなりさんへ参詣さんけいしねえことにゃ、ばちあたってがつぶれやしょう
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
『そやよつて、もつと待ちまへうと言ひましたのやがな。あんたがあんまりきなはるよつて、ばちが當りましたのや。』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「それは、まさしくかみさまのおさずだから、大事だいじにしてそだてなければばちたる。」と、おじいさんももうしました。
赤いろうそくと人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この諺の意味は神様のばちといふものは如何に逃れようと思つて万全の策を施しても、逃れられないといふ事である。
津軽地方特有の俚諺 (新字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
すると父は「このばち当りめが」と叱りつけた。母は「せっかくこしらえてやったのに、よその子を見て見なはれ、そんなきものは着てえへんやろがな」
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
といって大いにののしると、皆の者が怒って「お前のような者と一緒に帰ることは出来ない。ばちあたるから」というと
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そんな極楽浄土がある! 行かなかろうものならばちがあたる! ……行こうぞ行こうぞ、行かいでどうしよう!
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「神様のばちだ」とかれはさけんだ。「おれは後悔こうかいする。おれは後悔する。もしここから出られたら、おれはいままでした悪事のつぐないをすることをちかう。 ...
わびしく、頼りなく、にんじんはじっとしている——退屈が来るなら来い! ばちが当たるなら当たれ! だ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
あとなしたるばちならんと獨り心にくよ/\思ひながらゆくに又向ふより侍士の來るを見てはなみだながし人にかほを見らるゝもはづかしく思ひて歩行あるくゆゑ肝心かんじん渡世とせいの紙屑を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
▲『四谷』の芝居といえば、十三年前に亡父おやじが歌舞伎座でした時の、伊右衛門いえもん八百蔵やおぞうさんでしたが、お岩様のばちだと言って、足に腫物しゅもつが出来た事がありました。
薄どろどろ (新字新仮名) / 尾上梅幸(著)
討たれたなら、それは、二百石の腕もないのに、二百石を頂戴していたばちが当ったのだ。討てば——?
寛永武道鑑 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「うまく言ッてるぜ。淋しかろうと思ッてじゃアなかろう、平田を口説くどいて鉢をッたんだろう。ははははは。いい気味だ。おれの言うことを、聞かなかッたばちだぜ」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
有王 あゝ私もそれはわかりませぬ、が、清盛の積んだ悪業はきっとばちを受ける時が来ると思います。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
田中のものこの武士が米俵を脊負せおひしものといひしをきゝて、心におぼえあればさてはと心づき、これかならず行者ぎやうじやばちならんと行者ぎやうじやたるあらましをかたりきかせ
主人が跣足はだしになって働いているというのだから細君が奥様然おくさまぜんすましてはおられぬはずで、こういう家の主人あるじというものは、俗にいうばち利生りしょうもある人であるによって
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
土地により甘酒地蔵あまざけじぞうもしくはモロミ地蔵と謂って、路傍の地蔵に甘酒やモロミを注ぎ掛け、臭くて鼻をつまむようだが、洗い落そうとするとばちが当るなどというのも
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おろかな自分を責めるより外は無いけれど、死んでもこんな回復とりかへしの付かない事を何で私は為ましたらう! 貫一さん、貴方のばちあたつたわ! 私は生きてゐるそらが無い程
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
音楽では、高慢こうまんになってうそをつけば、きっとばちがあたる。音楽は謙遜けんそん誠実せいじつでなくてはならない。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
「とんでもない。わたしらのようなゴンゾが、そんなこと、考えただけでもばちがあたりますよ」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
清さんは何ともお思ひなさるまじく飛んだ隙潰ひまつぶしをしたなどと申しをられ候ふ事と存じ候、この始末後にて考へ候ふに、私にばちでも当つたのかお前様のおもいが通つてゐたのか
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「せめては遊びながら飯の食えるものだけでもこんなことを言わなければばちがあたりますよ」
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
けれども、かへりみて自分を見ると、自分は人間中にんげんちうで、尤も相手を歯痒はがゆがらせる様にこしらえられてゐた。是も長年ながねん生存競争の因果いんぐわさらされたばちかと思ふと余り難有い心持はしなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「狐でさえ食べてるんだから、おれが少し頂戴ちょうだいしたところで、まさかばちは当たるまい」
ひでり狐 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「そんなことをするとばちが当るぞ」などと祖父から叱られたりしたことを思いだした。
地球儀 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
だから退きならぬ人間の相しか現われぬし、動じない美しい形しか現われない、と仰有おっしゃる。生きている人間を観察したり仮面をはいだり、ばちが当るばかりだと仰有るのである。
私はさうした深刻な侮辱を感じながら、抽籤ちうせんにはづれてもなほ性懲しやうこりもなく、怨霊をんりやうかれたばちあたりのやうにその日その日の国民酒場を西へ東へと追つかけまはつたものである。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
「阿Qのばち当りめ。お前の世継ぎはえてしまうぞ」遠くの方で尼の泣声がきこえた。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
(微笑)伴天連ばてれんのあなたを疑うのは、盗人ぬすびとのわたしには僭上せんじょうでしょう。しかしこの約束を守らなければ、(突然真面目まじめに)「いんへるの」の猛火に焼かれずとも、現世げんぜばちくだる筈です。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そんな文とりついだ手を、率川いざかわの一の瀬で浄めて来くさろう。ばち知らずが……。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)