紫雲英げんげ)” の例文
よろず屋の店と、生垣との間、みちをあまして、あとすべていまだ耕さざる水田みずた一面、水草を敷く。紫雲英げんげの花あちこち、菜の花こぼれ咲く。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すみればかりは関東の野の方が種類も多く、色もずっとあざやかなように思われるが、蒲公英たんぽぽもまた紫雲英げんげも、花がやや少なくかつ色がさびしい。
馬子や漁師や往来の者の湯浴ゆあみにまかせる野天風呂があって、今も、紫雲英げんげのさいている原ッぱへ、笠やわらじをぬぎすてた旅の人が、草の葉の浮いている青天井の温泉につかッて
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紫雲英げんげの莖は次第に多くの葉をつけて地を這ひ、近寄つて見ると早いものはやがて花梗になるべきものをもう軸から抽き出してゐた。菜種や紫雲英は暖かになるにつれてこやしを多くむさぼつた。
続生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
灌漑用に引かれているせきへりには、すみれや、紫雲英げんげや、碇草いかりそうやが、精巧な織り物をべたように咲いてい、水面には、水馬みずすましが、小皺のような波紋を作って泳いでい、底の泥には、泥鰌どじょうの這った痕が
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
稲をくぐって隠れた水も、一面に俤立おもかげだって紫雲英げんげが咲満ちたように明るむ、と心持、天の端を、ちらちら白帆しらほきそうだった。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
四月八日のお釈迦しゃかの誕生の日に、紫雲英げんげと薊とこの花とを以て、花御堂はなみどうの屋根をく習わしもあったから、天竺餅の名はそれから出たのかも知れぬ。
一面に紫雲英げんげが生えた、その葉の中へ伝わって、断々きれぎれながら、一条ひとすじあおずんだ明るい色のものが、ったように浮いたように落ちています。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふと、生垣をのぞいたあかるい綺麗な色がある。外の春日はるびが、うららかに垣の破目やれめへ映って、娘が覗くように、千代紙で招くのは、菜の花にまじ紫雲英げんげである。……
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うの花にはまだ早い、山田小田おだ紫雲英げんげのこんの菜の花、並木の随処に相触れては、狩野かの川が綟子もじを張って青く流れた。雲雀ひばりは石山に高くさえずって、鼓草たんぽぽの綿がタイヤのあおりに散った。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貴僧あなたがここへいらっしゃる玄関前で、紫雲英げんげの草をくぐる兎を見たとおっしゃいました
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今朝六時頃、この見附を、客人で通りました時は、上下、左右すれ違うとサワサワと音がします。青空、青山、正面の雪の富士山の雲の下まで裾野をおおうといいます紫雲英げんげのように、いっぱいです。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
窓の外は、裾野の紫雲英げんげ高嶺たかねの雪、富士しろく、雨紫なり。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
屋根のほこり紫雲英げんげくれないおぼろのような汽車がぎる。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)