竜胆りんどう)” の例文
旧字:龍膽
女郎花おみなえしだの、桔梗ききょう竜胆りんどうだの、何、大したものはない、ほんの草物ばかり、それはそれは綺麗に咲いたのを積んだまま置いてあった。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
春竜胆はるりんどう勿忘草わすれなぐさの瑠璃草も可憐な花である。紫陽花あじさい、ある種の渓蓀あやめ、花菖蒲にも、不純ながら碧色を見れば見られる。秋には竜胆りんどうがある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
童女が感じのいい姿をして夫人の愛している竜胆りんどうや朝顔がほかの葉の中に混じってしまったのをり出していたわっていた。
源氏物語:28 野分 (新字新仮名) / 紫式部(著)
床の上に、小さな花瓶に竜胆りんどうの花が四五本挿してある。夏二た月の逗留とうりゅうの間、自分はこの花瓶に入り替りしおらしい花を絶やしたことがなかった。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
嵐に耐えた竜胆りんどうの一もとに宿った露が、静かな朝の光に耀いているのが、横文字の間に現われているのである。
軽井沢にて (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
近くの丘にははじの叢が、ほのおのように紅葉し、その裾には野菊や竜胆りんどうの花が、秋の陽を浴びて咲いていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
池の囲りには小岩鏡、御前橘、石楠、姫石楠、イワハゼ、珍車、岩高蘭がんこうらん、立山竜胆りんどう蔓苔桃つるこけもも、麒麟草、猩々袴、鷺菅などがあり、殊に毛氈苔と白山小桜が美しい。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
裏の山から腕いっぱい花をかかえて帰ってくる看護婦に分けてもらって薬罎くすりびんにさした竜胆りんどう鈴蘭すずらんなどの小さな花のかおりをかぎながら、彼は生き生きとした呼吸をし出した。
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
僕は水を汲んでの帰りに、水筒は腰に結いつけ、あたりを少し許り探って、『あけび』四五十と野葡萄一もくさを採り、竜胆りんどうの花の美しいのを五六本見つけて帰ってきた。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
蛍草ほたるぐさ竜胆りんどう風の花が、熊笹のあちらこちらに見える。野生の石楠花しゃくなげが処々に咲いている。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
栗拾いの子供らが、分け行く山路の草には、もう水霜が降りて竜胆りんどうの葉がうなだれる。
木の葉山女魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
その歳晩、私の住んでいた小田原の家の南の窓からは足柄、二子が遠く見え、庭先には、冬をも青々とした竜胆りんどうがあり、千日菊があり、千日菊にはまん丸い白い花が咲いていた……。
随筆 寄席囃子 (新字新仮名) / 正岡容(著)
竜胆りんどうあり。これもここのみに生ずと、嘉助氏いえり。駒草もこのあたりに多し。白雲岳に取り付けば、これも巌ばかりの山也、刀のやいばに似たる頂上をつたいつたいて、最高処に至る。
層雲峡より大雪山へ (新字新仮名) / 大町桂月(著)
そうして枯草の間に竜胆りんどうの青い花が夢見顔に咲いているのを見た時に、しみじみあの I have nothing to do with thee という悲しい言が思い出された。
日光小品 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ったりした、およそ間の岳から北岳の峰までの、石の草原には、深山薄雪草みやまうすゆきそう深山金梅みやまきんばい、トウヤク竜胆りんどう岩梅いわうめ姫鍬形ひめくわがた苔桃こけももなどが多いが、その中で、誰の目にもつくのは、長之助草である
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
他の一つには、娘は水をかへて、竜胆りんどうの花をつけてゐるところだつた。
挿頭花 (新字新仮名) / 津村信夫(著)
その夜は白地に秋草模様を染めた着物で、珍しく奴袴ぬばかまは着けず、はでな竜胆りんどう色の帯を、うしろで大きく結び、素足に草履をはいていた。化粧もしているらしい、髪にも香油があまやかに匂っていた。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その時彼らに代って、両手に竜胆りんどうはぎとをかかえた他の二人の使部が這入はいって来た。反絵は二人の傍へ近寄った。そうして、その一人の腕から萩の一束を奪い取ると、彼のひたいを打ち続けてまた叫んだ。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「ほう、竜胆りんどうだ。見たまへ。」
蜜柑山散策 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
竜胆りんどう撫子とこなつでございます。新夫人にいおくさまの、お心が通いまして、折からの霜に、一際色がえました。若様と奥様の血のおもかげでございます。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
耳無地蔵の足下あしもとなどに、さま/″\の他の無名草ななしぐさ醜草しこぐさまじり朝露を浴びて眼がさむるように咲いたつゆ草の花を見れば、竜胆りんどうめた詩人の言を此にもりて
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それにはそれぞれに「白樺しらかば」とか「竜胆りんどう」とか「石楠花しゃくなげ」などと云う名前がついていた。
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
源氏は枯れた植え込みの草の中に竜胆りんどう撫子なでしこの咲いているのを見て、折らせたのを、中将が帰ったあとで、若君の乳母めのとの宰相の君を使いにして、宮様のお居間へ持たせてやった。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
すすきしろがねの穂を延ばし、水引みずひきの花は紅に、芙蓉ふようの花は薄紅うすべにに、竜胆りんどうの花は空色に、雑草のに間に咲き乱れ、風に乗せられて匂うのは、木犀もくせいの香か睡蓮すいれんの香か、時雨のような虫の声は
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
晃然と霜柱のごとく光って、銃には殺気紫に、つぼめる青い竜胆りんどうよそおいを凝らした。筆者は、これを記すのに張合がない。
枯れた草の中から竜胆りんどうが悠長に出て咲いているのが寒そうであることなども皆このごろの景色けしきとして珍しくはないのであるが、おりと所とが人を寂しがらせ、悲しがらせるのであった。
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
前方にはまがきが結われてあり、そこいら一めんに見知らない夏草が茂っていたが、そんな中にぽつりぽつり竜胆りんどうがもう大かた花も散ったまま立ちまじっているのがびしげに私の目に止まった。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
蛇のでもあるが、春は香の好いツボスミレ、金蘭銀蘭、エゴ、ヨツドヽメ、夏は白百合、撫子花、日おうぎ、秋は萩、女郎花、地楡われもこう竜胆りんどうなどが取々とりどりに咲く。ヨツドヽメの実もくれないの玉をつづる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
おんなは、道端のやぶのぞき松の根をくぐった、竜胆りんどうの、茎の細いのを摘んで持った。これはたもとにも懐にも入らないから、何に対し、たれに恥ていいか分らない。
若菜のうち (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
谷にはうぐいす、峰には目白めじろ四十雀しじゅうからさえずっているところもあり、紺青こんじょういわの根に、春はすみれ、秋は竜胆りんどうの咲くところ
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其年活けた最初の錦木は、奥州の忍の里、竜胆りんどうは熊野平碓氷の山岨やまそばで刈りつゝ下枝を透かした時、昼の半輪の月を裏山の峰にして、ぽかんと留まつたのが、……其の木兎で。
玉川の草 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
だから、日向で汗ばむくらいだと言った処で、雑樹一株隔てた中には、草の枯れたのに、日がすかと見れば、何、瑠璃色るりいろに小さくった竜胆りんどうが、日中ひなかも冷い白い霜をんでいます。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さればとて、これがためにその景勝をきずつけてはならぬ。大崩壊おおくずれいわおはだは、春は紫に、夏は緑、秋くれないに、冬は黄に、藤を編み、つたまとい、鼓子花ひるがおも咲き、竜胆りんどうも咲き、尾花がなびけば月もす。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おのずから竜胆りんどうの花は高く揺れた。
竜胆りんどう以上に嬉しいなあ。」