百足虫むかで)” の例文
旧字:百足蟲
一丈五尺もある百足虫むかでが群れをなし、怪獣ベヘモスの浴場にもなり得ようという、テーベの奇怪な沼のように人々はそれを思っていた。
それから夜明けにかけて、全軍の兵は、蜿蜒えんえん百足虫むかでのような長いさくい廻しにかかった。一本のくいを打ち込むにも位置や深さの法則があった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「俺はその虫が大嫌いでな。のみしらみ、バッタ、カマキリ、百足虫むかで、——虫と名のつくものにろくなものがない」
百足虫むかでのように頭の中を刺しまわって、何を見るにも血色の網からのぞくような気持だったが、今夜という今夜こそ、この鐘がなりひびいた祈誓の結着に、たたきひしいでくれようわ。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
船べりからは百足虫むかでのようにの足を出し、ともからは鯨のようにかじの尾を出して、あの物悲しい北国特有な漁夫のかけ声に励まされながら、まっ暗に襲いかかる波のしぶきをしのぎ分けて
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「ぢや、あんた、百足虫むかでをもつてるの。ああ、おつかない。」
母子ホームの子供たち (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
ユルシュリーヌの建築材置き場の中にははさみ虫、パンテオンには百足虫むかで、練兵場のどぶの中にはおたまじゃくしがいる。
幾つもの赤い火が蝟集いしゅうして、一疋の百足虫むかでのような形を作りながら、山と山の間を縫って来るものとおぼえます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
火の百足虫むかではだんだんに山の尾根をすすんで、二人の目の下まで進んで来ています。そしてまた幾分か登りながら何かの足場を求めている動作に見える。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでこの二十四人の男は、馬車からおりて歩くようなことになれば、同一のものに無理に縛られ、鉄の鎖を背骨としてほとんど百足虫むかでのように地上をはい回らねばならなかった。
寸断された百足虫むかでのように、輜重車は、なだれくだって、谷間のふところへ出た。ここにも待っていた一隊の敵があった。許褚の影を見かけるや否、その敵将は、迅雷じんらい一電
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小さい時のことは、まわりに百足虫むかで蜘蛛くもへびばかりがいた時代のように思われた。
ごくり、ごくり、と酒の入ってゆく宅助ののどが、百足虫むかでの腹のように太った。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうちに、後から後から競馬場へ来る二人曳きの腕車や馬車がれきろくとしてつづき、そしてたちまち、停滞車に道をふさがれて百足虫むかでのように止まった。——お光さんは平然としてうごかない。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)