百花園ひゃっかえん)” の例文
夏、日ざかりに、しばしばわたくしは百花園ひゃっかえんを訪問する。そして、蓮の葉の一ぱいに、岸よりも高くひしめきつつもり上ったあの池のまえに立つ。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
明治の末、わたくしが西洋から帰って来た頃には梅花は既に世人の興をくべき力がなかった。向嶋むこうじま百花園ひゃっかえんなどへ行っても梅は大方枯れていた。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
腹痛やゝ治まる。向うへ越して交番に百花園ひゃっかえんへの道を尋ね、向島堤上の砂利を蹴って行く。空いつの間にか曇りてポツリ/\顔におつれどさしたる事もなければ行手を急いで上へ/\と行く。
半日ある記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
宿屋を引き上げて一同竹屋の渡しを渡り、桜のわくら葉散りかかる墨堤ぼくていを歩みて百花園ひゃっかえんに休み木母寺もくぼじの植半に至りて酒を酌みつつ句会を催したり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
曳舟まで出て見ると、場末の町つづきになって百花園ひゃっかえんも遠くはない。百花園から堀切ほりきり菖蒲園しょうぶえんも近くなって来る。
向島 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
向島むこうじま百花園ひゃっかえんなぞにても我国従来の秋草あきぐさばかりにては客足つかぬと見えて近頃はさかんに西洋の草花を植雑うえまじへたり。
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
百花園ひゃっかえんは白鬚神社の背後にあるが、貧し気な裏町の小道を辿って、わざわざ見に行くにも及ばぬであろう。
水のながれ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
井上唖々いのうえああさんという竹馬ちくばの友と二人、梅にはまだすこし早いが、と言いながら向島を歩み、百花園ひゃっかえんに一休みした後、言問ことといまで戻って来ると、川づら一帯早くも立ちまよう夕靄ゆうもやの中から
雪の日 (新字新仮名) / 永井荷風(著)