ほとり)” の例文
往時むかしは匪徒を伊豆の諸島に流すに、この橋のほとりと永代橋の畔より船を出すを例とし、かつこゝよりするものは帰期あるものと予定し
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
偶々たまたま道に迷うて、旅人のこのあたりまで踏み込んで、この物怖しの池のほとりに来て見ると、こは不思議なことに年若い女が悄然しょんぼりたたずんで
森の妖姫 (新字新仮名) / 小川未明(著)
藤木家の寺院おてらは、浅草菊屋橋のほとりにあって、堂々とした、そのくせ閑雅な、広い庫裏くりをもち、やぶをもち、かなり墓地も手広かった。
しかし江戸時代には、日本橋のほとりも、決してそうした無秩序ではなかったのであろう。もっと整理されたものであったのであろう。
日本橋附近 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
その沼のほとりから小半町こはんちょうほど離れた原の真中に、十七八の美しい娘が頭の天辺から割りつけられ、血に染まって俯伏せに倒れていた。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
今朝は日曜なれば家にれど、心は楽しからず。エリスはとこすほどにはあらねど、さき鉄炉てつろほとり椅子いすさし寄せて言葉すくなし。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
湯本達のベッドは、赤絵具を溶いて流した血の池地獄のほとりにあった。このサディストとマゾヒストは、そこで夜毎よごとの痴戯を楽しむのだ。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこから池之端へ出、不忍しのばずの池のほとりをまわって、弁天の茶屋のほうへゆくあいだ、新八はうしろから、おみやの姿をつくづくと眺めた。
こうして、すでに長蛇ちょうだを逸し去った曹操は、ぜひなく途中に軍の行動を停止して、各地に散開した追撃軍を漢水のほとり糾合きゅうごうしたが
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我物語を傍聽かたへぎゝせし醫師は公子に向ひ頭を傾けて、さては君の此人を搜し得給ひしは彼魔窟のほとりなりけるよといひぬ。公子。さなり。
セルギウスは夕方になつて或る村のほとりに来た。併しその村には足を入れずに河の方へ歩いて往つて、懸崖がけの下で夜を明かした。
幽邃ゆうすいの趣きをたたえた山裾やますその水のほとりを歩いたりして、日の暮れ方に帰って来たことなどもあって、また二日三日と日がたった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
丑満うしみつも既に過ぎ去った。おりから戸外そとの夜嵐が、ハタとばかりに途絶えたが、池のほとりで物を洗う、かすかの水音が聞こえて来た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大正池のほとりに出て草臥くたびれを休めていると池の中から絶えずガラガラガラ何かの機械の歯車の轢音れきおんらしいものが聞こえて来る。
雨の上高地 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
渓のほとりにありいにしへは大蛇ありてようをなす時に弘法(大師)持咒じじゅうしたまいければ大蛇忽ち他所にうつりて跡に柳生ぜり因て此名ありといふ
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
かの女は水のきよらかな美しい河のほとりでをとめとなつた女である。の川の水源は甲斐かい秩父ちちぶか、地理にくらいをとめの頃のかの女は知らなかつた。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
信長鷹野で小鳥を得ると、政秀この鳥を食えよと空になげ、小川のほとりに在っては政秀この水を飲めよと叫び涙を流した。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
丁度その図面にあらわれているのも岸本が旅でったと同じ季節の秋で、よく行って歩き廻ったヴィエンヌ河のほとりの旅情を喚起よびおこすに十分であった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
澄んだ叡智えいちとに輝いた便りを下さった時、また湖のほとりの旅館からの静かな心をこめた手紙、また母上を東京に送って行かれて帰られた時の手紙など
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
さてこのひさきは奈良の都の佐保川さほがわほとりなどに、川風に吹かれて生長していたようである。渡来した理由はやはり薬種に関係があったからであろう。
しかし楚の王が師をおこしてはるばる淮河のほとりから孔子を迎えたというような大事件が、『論語』の中に全然痕跡を残していないのは何ゆえであろうか。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
今日きょう一日は山中に潜伏して、日の暮るるを待って里へ出る方が安全であろうと、ひもじい腹を抱えて当途あてども無しに彷徨さまようちに、彼はおおいなる谷川のほとりに出た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これはアパラツチエン山の幹から出た小枝で、遙に西に向つて、仰いで見れば、麓は河のほとりに垂れて、いたゞきは空に聳え、自づと近隣の地を支配して居ます。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
自分は小山にこの際の自分の感情を語りながら行くと、一条ひとすじの流れ、薄暗い林の奥から音もなく走りでまた林の奥に没するほとりに来た。一個の橋がある。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
たちま一閃いつせんの光ありて焼跡を貫く道のほとりを照しけるが、そのともしび此方こなたに向ひてちかづくは、巡査の見尤みとがめて寄来よりくるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
明治めいぢ三十五ねんはるぐわつ徳島とくしまり、北海道ほくかいだう移住いぢゆうす。これよりき、四男しなん又一またいちをして、十勝國とかちのくに中川郡なかがはごほり釧路國くしろのくに足寄郡あしよろごほりながるゝ斗滿川とまむがはほとり牧塲ぼくぢやう經營けいえいせしむ。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
の如きくわが記憶する所なり。現に城南新橋じょうなんしんきょうほとり南鍋街なんこがいの一旗亭きていにも銀屏ぎんぺいに酔余の筆を残したまへるがあり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
博士の『水と原生林のほとりにて』は邦訳もあった筈であり、その自叙伝『我が生涯と思想』は日本の読書界にもかなりよく読まれたということを聴いている。
ロンドンのテームス河のほとりで、一匹の小さい船喰虫ふなくいむしが、しきりに材木をかじっていました。ちょっときくと、それは私どもお互いとは、なんの関係もないようです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
さつき晴なる折々は広瀬川のほとりにもさまよひ青野のはてに海を見る天主台、むかひ山などにものぼりぬ。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
向うの平地へ驀地まっしぐらに走る、森は孤立した小島になる、水楊が川のほとりにちょんぼりと、その蒼い灰のような、水銀白を柔らかにいた薄葉を微風にうらえしている
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
それはいうまでもなく夢のように記憶の底にある池のほとりの森に囲まれた家を捜すためである。家の主人は一里ばかり離れたところに大きな池があると教えてくれた。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
深山を下ること二里余り、紺碧こんぺきの水をたたえたる湖のほとりへ出た。ここで渇したるのどを清水にうるおし、物凄き山中を行くと、深林の中に人が歩るいたらしい小径しょうけいがある。
貢さんはうさぎぶ様に駆け出して桑畑に入つて行つた。はたけなかにお濱さんは居ない。ぬまほとりに出た。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
極度の緊張から驚駭きょうがいへ、驚駭から失望へ、失望から弛緩しかんへ、私は恐ろしい夢と、金を取戻したはかない喜びの夢を、夢現ゆめうつつの境に夢みながら、琵琶湖のほとりをひた走りしていた。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
勝道はまた庚申講の熱心な勧進者であったが、村の流れの駒形岩の淵のほとりにおいて、やはり竜神の饗応を受け、その食物を食べたという点は、丹後紀伊などと似ていた。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ことに東山のほとりのこととて人の足音もふっつりと絶えていたが、蒼白あおじろもやの立ちこめた空には、ちょうど十六、七日ばかりの月が明るく照らして、頭をあおのけてながめると
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
天龍寺の峨山がざん和尚が、ある時食後の腹ごなしに境内の池のほとりをぶらぶらしてゐた事があつた。
浦幌うらほろ川に流れ込むその清水の谷川のほとりには、半分腐れかけた幾本もの大木が倒れていた。雄吾はそれらの大木をまたぐのが面倒なので、猟銃を杖にして木から木へと伝い歩いた。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
二十荷の桶がぶっつかり、たぽたぽと鳴る。ぎぎぎときしみ、トラックが急停車したので、前の板で大方額を打つところであった。トラックは唐人川尻の土橋のほとりに止まっていた。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そしてそのあくる日は、いよいよ今日がお名残の日というので、また岬から工事場の跡、湖のほとりまで姉妹きょうだいと連れ立って、遊びに出かけましたが、その日はとても蒸し暑い日でした。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
唐の高宗の時に柳毅りゅうきという書生があった。文官試験を受けたが合格しなかったので、故郷の呉に帰るつもりで涇川けいせんほとりまで帰ってきたが、その涇川の北岸に同郷の者が住んでいた。
柳毅伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そういう武装は、原始林にいどみ、野獣に備え、ものをあさる用具であった。踏みあばいて行く川のほとり濶葉樹かつようじゅつづきの森林に、彼らはふと、黒々と見える常緑の水松おんこを発見した。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
海老名えびな弾正だんじょう君司会のもとに、箱根山上、蘆の湖のほとりにおいてなしたものであります。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
かけひの水音を枕に聞く山家やまがの住居。山雨常に来るかと疑う渓声けいせいうち。平時は汪々おうおうとして声なく音なく、一たび怒る時万雷の崩るゝ如き大河のほとり。裏にを飼い門に舟をつなぐ江湖の住居。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
伯父の作った胡瓜きゅうりの漬けたのを、美味うまい美味いといって随分沢山食って行ったことと、それからこれも伯父の趣味であろうが、ここの浴室は、全然離れた庭の端の金鱗湖のすぐほとりの所に
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
烏江うこう水浅みずあさくして騅能逝すいよくゆくも一片いっぺんの義心ぎしん不可東ひんがしすべからずとは、往古おうこ漢楚かんその戦に、楚軍そぐんふるわず項羽こううが走りて烏江うこうほとりに至りしとき、或人はなお江を渡りて、再挙さいきょの望なきにあらずとてその死をとどめたりしかども
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
鶴の青銅の噴水のある池のほとりちんにかけて降る雪を眺めていたら、雪は薄く街の灯をてりかえしていて白雪紛々。紅梅の枝に柔かくつもってまるで紅梅が咲いているような匂わしい優美さでした。
そして、上野の不忍しのばずの池のほとりに来たときに自然と二人の足はまった。
と団さんは池のほとりのベンチにかけて煙を吐きながら語りだした。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)