生死しやうじ)” の例文
そこで土間どまつかへて、「ういふ御修行ごしゆぎやうんで、あのやうに生死しやうじ場合ばあひ平氣へいきでおいでなされた」と、恐入おそれいつてたづねました。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
うかすると夜間にこの界隈へ大通おほどほりから一歩迷ひ込んだ旅客りよかくの一人や二人が其儘そのまゝ生死しやうじ不明になつて仕舞しまふ例もあると云ふ。しかし其れは昔のことに違ひない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
悲、悲、悲の涙を呑んで、十二因縁の流轉のたまきを切り、幻、幻、幻のちまたに徘徊して、二十五生死しやうじのきづなをくりはて給ひしといふは、誰のことでござりまするか。ハイ。
山家ものがたり (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
譬へばあの男が龍蓋寺の門へきました、五しゆ生死しやうじの繪に致しましても、夜更よふけて門の下を通りますと、天人の嘆息ためいきをつく音や啜り泣きをする聲が、聞えたと申す事でございます。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
瀧口入道とのりの名に浮世の名殘なごりとゞむれども、心は生死しやうじの境を越えて、瑜伽三密の行の外、月にも露にも唱ふべき哀れは見えず、荷葉の三衣、秋の霜に堪へ難けれども、一杖一鉢に法捨を求むるの外
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
生死しやうじの覚悟身に沁まず
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
しゆ生死しやうじの圖を描く爲には、道ばたの死骸さへ寫したと云ふ、傲慢なあの男が屏風の畫が思ふやうに描けない位の事で、子供らしく泣き出すなどと申すのは隨分異なものでございませんか。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
呉夫人の生死しやうじを知らず初めより夢の花ぞと思ひけらしな
現に龍蓋寺の五しゆ生死しやうじの圖を描きました時などは、當り前の人間なら、わざと眼をらせて行くあの往來の屍骸の前へ、悠々と腰を下ろして、半ば腐れかかつた顏や手足を、髮の毛一すぢも違へずに
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)