生死いきしに)” の例文
うだ、んだとへば、生死いきしにわからなかつた、おまへ無事ぶじかほうれしさに、張詰はりつめたゆるんで落胆がつかりして、それきりつたんだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
兩親ふたおやに早く死別れてつた二人の姉弟きやうだいですから互に力にして居たのが今では別れ/\になつて生死いきしにさへ分らんやうになりました。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
いつでも此女これから話は聞いていました、一人お母様っかさんがあるけれ共生死いきしにが分らない、しかし丈夫な人で、若い気象だったから達者でいるかとお噂は能くしますが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お島はいつもそれが起ると、生死いきしにの境にでもあるような苦しみをする月経時のだるさと痛さとにもだえていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
生死いきしにということは、旅路の一夜泊りのようなものでございますから、生きていることが必ずしも歓喜ではなく、死にゆくことが必ずしも絶望なのではございません。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「少しは痛う御座いやす。針ていうものは効果ききめの恐ろしいもので生死いきしににかかわるものでげす。」
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
瓜実顔うりざねがおで富士額、生死いきしにを含む眼元の塩にピンとはねたまゆ力味りきみを付け、壺々口つぼつぼぐち緊笑しめわらいにも愛嬌あいきょうをくくんで無暗むやみにはこぼさぬほどのさび、せいはスラリとして風にゆらめく女郎花おみなえし
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
さあ、父の与へたいましめは身に染々しみ/″\こたへて来る。『隠せ』——実にそれは生死いきしにの問題だ。あの仏弟子が墨染の衣に守りやつれる多くの戒も、の一戒に比べては、いつそ何でもない。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ヘルマー どうしたんだ、ノラ、お前の踊りはまるで生死いきしにの騷ぎのやうだ。
人形の家 (旧字旧仮名) / ヘンリック・イプセン(著)
尤も主人が行方ゆくえ不明になってからまだ八ヶ月たったばかりで、失踪の手続をして、相続人を極めるには、未だ少し間があります、その期間内に、主人の生死いきしにを確かめるか、それが出来なければ
古銭の謎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
立つとして今は安きか兵彼ら生死いきしにほかに遊べるごとし
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
更科の田毎の月も生死いきしにの理も瞬間に時移るため
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
生死いきしに閻浮えんぶにかへるいくさかな 直安なおやす
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
数々の生死いきしにおもふ火桶かな
下町歳事記 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
これぢやうにも仕樣しやうがねえ。とても出來できねえものなら仕方しかたはねえが、ちつと、これんばかしでも都合つがふをしねえ、急場きふばだから、おれ生死いきしにさかひふのだ。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
どう間違っても碓氷峠うすいとうげの下で、裸松のために生死いきしにの目に逢わせられたり、木曾川沿岸で、土左衛門の影武者におびやかされたりするような脱線のないことは保証する。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
姉は織物をしたり糸をったりしてすきはございませんが、少しひまが有れば大滝村の不動様へ親父おやじ生死いきしに行方が知れますようにと信心して、姉弟二人中ようして暮して居ります。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
秘密——生死いきしににも関はる真実ほんたうの秘密——仮令たとひ先方さきが同じ素性であるとは言ひ乍ら、奈何どうして左様さう容易たやす告白うちあけることが出来よう。言はうとしては躊躇ちうちよした。躊躇しては自分で自分を責めた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
蒼黄色あおぎいろい顔——畜生——牡丹の根で気絶して、生死いきしにも知らないでいたうちの事がうつつあらわれて、お腹の中で、土蜘蛛つちぐもが黒い手を拡げるように動くんですもの。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
生死いきしにのほかには言ってもらわないがよい、あれはあれだけのことになって、身上も分離してお前にあずけてある、お前の方で取計らいきれないということはあるまいが」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
およそ、獅子大じんに牡丹餅をくわせた姉さんなるものの、生死いきしにのあい手を考えて御覧なさい。相撲か、役者か、渡世人か、いきな処で、こはだのすしは、もう居ない。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこで、それがそのまま、いちが栄えれば何のことはないが、恋愛というものは生死いきしになんだ、失うか、得るかよりほかには、妥協というものが利かないんだから、やりきれない。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なぶるな。ひと生死いきしにあひだ彷徨さまよところを、玩弄おもちやにするのは残酷ざんこくだ。貴様きさまたちにもくぎをれほどなさけるなら、一思ひとおもひにころしてしまへ。さあ、引裂ひきさけ、片手かたてげ……」とはたとにらむ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
産婦が屏風びょうぶうちで、生死いきしにの境、恍惚うっとりと弱果てたわきに、たすきがけの裾端折すそはしょりか何かで、ぐなりとした嬰児あかんぼ引掴ひッつかんで、たらいの上へぶら下げた処などは、腹を断割たちわったと言わないばかり
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三百にんばかり、山手やまてから黒煙くろけぶりげて、羽蟻はありのやうに渦卷うづまいてた、黒人くろんぼやり石突いしづきで、はまたふれて、呻吟うめなや一人々々ひとり/\が、どうはらこし、コツ/\とつゝかれて、生死いきしにためされながら
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夫人 人の生死いきしには構いませんが、切腹はさしたくない。私は武士の切腹は嫌いだから。しかし、思いがけなく、お前の生命いのちを助けました。……悪い事ではない。今夜はいいだ。それではお帰り。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山手やまてから黒煙くろけぶりを揚げて、羽蟻はありのやうに渦巻いて来た、黒人くろんぼやり石突いしづきで、浜に倒れて、呻吟うめき悩む一人々々が、胴、腹、腰、背、コツ/\とつつかれて、生死いきしにためされながら、抵抗てむかいも成らずはだかにされて
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)