しか)” の例文
具体的論理たるかぎり、しかいうことができる。しかしくいうのは、論理の根柢に神秘的直観的なものを考えるということではない。
絶対矛盾的自己同一 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
自分がしかく思わぬことでありながら、思っているようの返事をしたり、あるいはしかく思いながらも思わぬごとき言葉を使ったりする
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そのいたく落ち着きたる、これを頼もしとわば謂え、伯爵夫人のしかき容体を見たる予が眼よりはむしろ心憎きばかりなりしなり。
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一夜一夜に多少は太くなるのだろうけれど、しかとは見えぬ。(暗黒星にても太陽の光を反射して輝くなり、なお月の輝くがごとし)
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
問者といては「仏は生死をまぬかれず。何となれば仏は人なるがゆえに、人は生死をまぬかれざるがゆえに、汝はしかく言いしがゆえに」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「——貴方は、御主人の大切な用を頼むのに、手をお下げにならん。普通なら、両手をしかと突いて、額を下げて頼むところでしょうがな……」
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
弥二の才、得すからず、年、なりといえども、学、幼なりといえども、吾の相待つは、則ち長老に異ならざるなり。何如いかん契濶けいかつすなわしかるや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
吾人ごじん日常にちぜう英國えいこくを、「イギリス」、獨國どくこくを「ドイツ」とぶが、英獨人えいどくじん吾人ごじんたいしてみづかしかばないではないか。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
海軍々人はしかく婦人を侮辱するものと言はれては、是れ実に私一人の耻辱のみでは無いのでありますから、今晩は此の罪をもつゝしんで貴嬢の前に懺悔ざんげ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
然るに天公その愚を懲らし、この書今は支那風物研究会の出版する所となる。次手を以て広告することしかり。
北京日記抄 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかく貧なりと雖も彼の家庭は幸福なるを得し也。彼の妻は彼の死後貞節を以て市尹しゐんより褒称はうしようせられし程の人なり、彼も亦其妻に対して極て温情なる夫なりき。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
そういう風に考えて来ると、いささか分別臭くなるおそれがあるが、俳諧は固よりしかく観念に終始するを要せぬ。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
法がしからしむる所にいればよいのである。これが「自然法爾じねんほうに」の教えである。そういう境地を仏徒は「にょ」といったのである。この「如」のみが不動不変なのである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
吾儕はしかく青簾を愛する、その初袷に赴いた心はやがて青簾にも同じ好愛を恣にするのである。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
まさに更に比丘を迎えて内に入らしむべし、もししかせざれば、後來期なからんと。すなわち内に更に好き牀を敷き燈を燃し、阿那律に語りて言う、進みて内に入るべしと。
前年半ばは有志半ばは俳優なりし彼はついしかく純然たる新俳優となりすませるなりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
予をしてしかく速かに入院の決心をなすべく誘つたものは、よる寢てさへも安き眠りを許さぬ程に壓迫するその腹でも、また青柳學士の口から出た予の生命に對する脅迫の言葉でもなく
第十八号室より (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
守りしかも天然の大力ありと雖も是を平常つねに顯さず仁義を專らになし強きをくぢき弱きを助け金銀ををしまず人の難儀なんぎを救ふ此故に大岡殿の吹擧すゐきよに預りて將軍家の御旗本おはたもととなり領地五百石を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
養生やうじやう榮燿えいやうやうおもふは世上せじやう一般いつぱん習慣ならはしなり。いまへる養生法やうじやうはふは、いかなる貧人ひんじん、いかなる賤業せんげふひとにても、日夜にちやこゝろそゝげば出來できことなり。よつその大意たいい三首さんしゆ蜂腰ほうえうつゞることしかり。
養生心得草 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
「僕もそう思う。只資格をこしらえると云うだけだ。俗にしたがっていささかまたしかりだ」
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
信曰く、殿下しかしたもう無かれ、まことに事あらばまさに臣に告げたもうべし、殿下もしじょうを以て臣に語りたまわずば、上命あり、まさとらわれに就きたもうべし、し意あらば臣にみたもうなかれと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
台詞せりふは写らないから言う必要がない。写真だから見えるところ丈けで足りる。この辺がカラーさえあればシャツは要らないという現代思潮に投合するので活動写真はしかく歓迎されるのだろうと思った。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
スピノザ哲学の十全なる知識も、往々しか解せられる。しかし爾考えられるならば、スピノザ哲学も数学的主知主義に堕するのほかない。
デカルト哲学について (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
しかは云え、何分にも利害の大なる問題なれば、理学博士の注意に従うの得策たるは勿論なり、出来る限りの用心をなすことは有害に非ず。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
これをしも社会が渠等かれらに与うるに無形の桂冠けいかんをもってするしかき慈善事業というべきか、と皮肉なことはいいっこなし。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
路傍の人として馬を見送る態度でさえなければ、他はしかく限定するに当らぬであろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
しも、建築けんちく根本義こんぽんぎ解決かいけつされなければ、眞正しんせい建築けんちく出來できないならば、世間せけんほとんどすべての建築けんちくこと/″\眞正しんせい建築けんちくでないことになるが、實際じつさいおいてはかならずしもしか苛酷かこくなるものではない。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
これを満足する方法として商売し、商売の目的は何千百円をもうくるにある。ことを始むるときはしかく具体的に細密にもくろみするが、しかしこれを人に語るときは私は実業に従事するという。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ゑたる時は我もしかりき
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
生命が矛盾的自己同一的なればなるほどしかいうことができる。我々が個性的に深ければ深いほど、幻想的ということができる。
絶対矛盾的自己同一 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
あるいうまに、或は牛に、此般こんはんの者も多かるべし。しかれども予がかつ聞知ききしれるかれ干支かんししかく巳を重ねたるを奇異とせる記憶は、咄嗟とっさに浅次郎の名を呼起よびおこせり。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
我々が個物的なればなるほど、しかいうことができる。而してくなればなるほど、逆に我々は自己矛盾的に世界と一つになるということができる。
絶対矛盾的自己同一 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
よしや執着のとゞまりてうらみ後世こうせいに訴ふるとも、罪なき我を何かせむ、手にも立たざる幻影にさまで恐るゝことはあらじ、と白昼は何人なんぴとしかく英雄になるぞかし。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
我々の実践的決断は抽象的意識的自己の内より起るのではない。しか考えるのは、主語的論理の独断によるのである。私はこれについて多く論じた。
デカルト哲学について (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
中にもしかく端麗なる貴女の奥殿に伺候しこうするに、門番、諸侍の面倒はいささかもないことを。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
勇猛精近のおこない堅固に、信心不退転の行者なれば、しか黒暗闇こくあんあんうちに処しても真如しんにょの鏡に心をてらせば、胸間れたる月のごとく、松の声せず鏡の音無きも結句静処を得たりと観じ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
然らばしか考えるものは何物であるか。考える何物もないのであるか。考えるものがなければ、当為ということもない。斯くいうのがあやまりであるならば、誤る自己がなければならない。
デカルト哲学について (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
陽炎かげらふは、しかく、村里むらざと町家まちやる、あやしき蜘蛛くもみだれた、幻影まぼろしのやうなものではく、あだか練絹ねりぎぬいたやうで、てふ/\のふわ/\と呼吸いきが、そのはねなりに飜々ひら/\ひろがる風情ふぜい
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はうとして、ふとおのれかへりみてあきかへつた。這個この髯斑ひげまだらまなこつぶらにしておもあか辺塞へんさい驍将げうしやうたいして、しかことさむには、当時たうじ流行りうかう剣劇けんげき朱鞘しゆざや不可いけず講談かうだんものゝ鉄扇てつせんでも不可いけない。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夫子ふうしあながちにしかき道義的誤謬ごびうの見解を下したるは、大早計にも婦人を以て直ちに内政に参し家計を調ずる細君と臆断おくだんしたるに因るなり。婦人と細君と同じからむや、けだし其あひだに大差あらむ。
醜婦を呵す (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
否、たゞに要せざるのみならず、しかき不快なる文字もんじはこれを愛の字典の何ペエジに求むるも、決して見出すこと能はざるに至るやひつせり。然れども斯の如きは社会に秩序ありてあへて許さず。
愛と婚姻 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
梓はここに到って、胸中まず後の謝恩を決しながら、と差出した、医師のごとく、しかく綺麗な手に、一杯の清水せいすい、あたかもたまのごときをそそいで、さっと砕けると更に灌いだ、しずくも切らせず
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
如何いかんとなれば、乘客等じようかくらしかころしてじんさむとせし、この大聖人だいせいじんとく宏大くわうだいなる、てん報酬はうしうとしてかれ水難すゐなんあたふべき理由いはれのあらざるをだんじ、かゝ聖僧せいそうともにあるものは、この結縁けちえんりて
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
滝は、ひでりしかく骨なりといえども、いわおには苔蒸こけむし、つぼは森をかついであおい。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
李花は病床にあれりしなる、同じ我家の内ながら、渠は深窓に養はれて、浮世の風は知らざる身の、しかくこの室に出でたるも恐らくその日が最初はじめてならむ、長きやまいおもかげやつれて、寝衣しんいの姿なよなよしく
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一言も物いわぬ三人の口は、一度にバアと云って驚かそうと、我がために、はたしかく閉されているように思って、友染はかんざしの花とともに、堅くなって膳を据えて、浮上るように立って、小刻こきざみふすまの際。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)