烏賊いか)” の例文
烏賊いか椎茸しいたけ牛蒡ごぼう、凍り豆腐ぐらいを煮〆にしめにしておひらに盛るぐらいのもの。別に山独活やまうどのぬた。それに山家らしい干瓢かんぴょう味噌汁みそしる
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その数学の教師でも早川さんのように徹底したのは滅多にない。ワイシャツが面倒だと言って、烏賊いかの甲という胸丈けの奴をつけている。
母校復興 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
かくて、子供は、烏賊いかというものを生れて始めて喰べた。象牙ぞうげのような滑らかさがあって、生餅より、よっぽど歯切れがよかった。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
魚類ばかりでなく、海胆うに海鼠なまこ烏賊いか及びある種の虫さえも食う。薄い緑色の葉の海藻も食うが、これは乾燥してブリキの箱に入れる。
倉持は空腹を感じていたので、料理と酒を註文ちゅうもんし、今母のいた部屋で、気仙沼けせんぬま烏賊いかの刺身でみはじめ、銀子も怏々くさくさするので呑んだ。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
受験生の母親 えー、頭足類とうそくるいはたこに、いいだこに、ま烏賊いか、するめ烏賊、やり烏賊の五つ。この頭文字を読むと、たいますや。
新学期行進曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
烏賊いか」ホテルの酒場のガラス窓越しに、話す男女の口の動きだけを見せるところは、「パリの屋根の下」の一場面を思いだす。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
第三十七 烏賊いか飯 と申すのは烏賊の袋へお米を詰めて煮たもので最初に烏賊の袋だけ取って中をよく洗ってお米を加減かげんに詰めて口を
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
晩飯の烏賊いかえびは結構だったし、赤蜻蛉あかとんぼに海の夕霧で、景色もよかったが、もう時節で、しんしんと夜の寒さが身にみる。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
アメリカの烏賊いかの缶詰の味を、ひそひそ批評しているのと相似たる心理でした。まことに、どうも、度し難いものです。
たずねびと (新字新仮名) / 太宰治(著)
そう云って、警部は一振りの洋式短剣ダッガーを突き出した。銅製のつばからつかにかけて血痕が点々としていて、烏賊いかの甲型をした刃の部分は洗ったらしい。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
しかし、自分の手で中天へ打ち揚げたのろしの煙が、シュルッとあおい空へ烏賊いかが墨をふいたように流れたのを、その眼は、確かに見とどけていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大抵族霊トテムたる動物を忌んで食わぬが通則だが、南洋島民中に烏賊いかを族霊としてこれを食うをしとするのもある(『大英類典』第九版トテムの条)。
丁度烏賊いかが、敵を怖れて、逃げるときに厭な墨汁を吐き出すやうに、この男も出鱈目な、その場限りの、遁辞を並べながら、匇卒として帰つて行つた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
見るもおそろしいような烏賊いかを賑やかに家内じゅう総がかりで揚げものにしている蒲焼の看板をかけた店だのというものが、狭い道に溢れて並んでいる。
今日の耳目 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
なおまた海岸地方においては、塩三斗、あわび十八斤、かつお三十五斤、烏賊いか三十斤、紫のり四十八斤、あらめ二百六十斤等をもって調とすることができる。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
呑もうぜ。料理もいつものようにな。きのうのようにまた烏賊いかのさしみなんぞを持って来たら、きょうは癇癪かんしゃく
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
村の人達が、夜になつて、それぞれ元気に艪拍子ろびようしをあはせて、えつさ/\と沖の方に烏賊いかつりにでかけました。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
ピラミッドのやうに積み上げた蜜柑を売る店、ゴム靴屋、一ぱい五円の冷凍烏賊いかを並べてゐる店、どんな路地の中にも、さうした露店市が路上にあふれてゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
ほら、腐りかけた、烏賊いかを台所の暗闇に置いてごらんなさい。烏賊と燐の関係は一目瞭然よ。して見ればわけのない事だわね。コン吉よ、どうかしっかりしてね。
酒と干し烏賊いかとを朱塗のぜんにのせて運んで来た。立ちあがる拍子に阿賀妻は家の中をちらッと一瞥いちべつした。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
あんさんこの間あの烏賊いかの料理たいそう気に入って、もっと外にも教せて貰え云うてはったやおませんか
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
朝干して居た烏賊いかが竹敷から歸りに見ると餘程するめの臭ひになつてゐた。對州も一寸覗いただけでもう壹州へ渡るのだ、仕方が無い。今日は雨である。(六月廿六日)
対州厳原港にて (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
烏賊いかに大根おろしをかけたのを肴に、茶のいきおいで、ボソボソした飯を掻き込む、大根の香物が、臭いのには少なからず閉口させられた、かみさんに云い付けて
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
ひやうに曰く證文の文字の消失きえうせしは長庵が計略により烏賊いかすみにて認めしゆゑならんか古今に其例そのためし有りとかや
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
驚いたことには、烏賊いかの冷凍まであって、これは刺身にして食って、ちっとも変でない。生姜もあるし、醤油はひどく上等品がきているので、ほとんど不自由しない。
北国の春 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
明鯛すけそうからたら、鱈からにしん、鰊から烏賊いかというように、四季絶える事のないいそがしい漁撈ぎょろうの仕事にたずさわりながら、君は一年じゅうかの北海の荒波や激しい気候と戦って
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
かれい烏賊いか、えい、ほっけを入れた笊籠はどこの家の板の間にも転がり、白菜の見事な葉脈の高く積っているあたりから、刈上げ餅を搗く杵音がぼたん、ぼたん、と聞える。
銭湯で汗をながして、さっぱりして帰ると膳ごしらえが出来ていた。あじの酢の物にもろきゅう、烏賊いかさしにさよりの糸作り、そして焜炉こんろには蛤鍋はまぐりなべが味噌のいい匂いを立てていた。
ゆうれい貸屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
変心の暁はこれが口をききて必ず取立とりたてらるべしと汚き小判こばんかせに約束をかためけると、或書あるしょに見えしが、これ烏賊いかの墨で文字書き、かめ尿いばりを印肉に仕懸しかくるなどたくいだすよりすたれて
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
からすみを食はず、いはん烏賊いか黒作くろづくり(これは僕も四五日ぜんに始めて食ひしものなれども)
田端人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「肚の黒い奴は富山の烏賊いかと、俺のうちの養子の野郎だ」と、彼は人々に吹聴して歩いた。
あるいは石ころばかりの海岸を伝い歩いて砂のないことを嘆いたり、あるいは部屋の中から初島はつしまを眺めてぼんやりしていたり、あるいは烏賊いかばかり食わされて下痢を起こしたり
メデューサの首 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
そりゃ魚にはあるだろうけれど——例えば烏賊いかなどはその通りだが、眼の縁だけに燐光を
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかもあとからあとから目の前にひろがってくる不安の常闇はまるでとこしなへの日蝕皆既のよう絶えずいや増してゆくばかりだった、まるで烏賊いかの吹きいだすあの墨のように。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
関東煮屋をやると聴いて種吉は、「海老えびでも烏賊いかでも天婦羅ならわいに任しとくなはれ」と手伝いの意をもうでたが、柳吉は、「小鉢物はやりまっけど、天婦羅は出しまへん」
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
それに、烏賊いか釣舟のが綺麗ですよ。三隻づゝ一組になつて、それが二三十間おきぐらゐに、一里も二里もつゞいて並んでゐるんですからね。丸で銀座通りでも歩いてゐるやうですよ。
談片 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
我々に大きな国家の料理が出来んとならば、この水産学校へ這入はいつて松魚かつおを切つたり、烏賊いかを乾したり網を結んだりして斯様かような校長の下に教育せられたら楽しい事であらう。(五月五日)
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
由来聖堂の吟味に出た場合に、大身の子と小身の子とはとかくに折り合いが悪い。大身の子は御目見おめみえ以下の以下をもじって「烏賊いか」と罵ると、小身の方では負けずに「章魚たこ」と云いかえす。
半七捕物帳:11 朝顔屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
蛸は八本の足を真直にそろえて、細長い身体を一気にすっすっと区切りつつ、水の中を一直線に船板に突き当るまで進んで行くのであった。中には烏賊いかのように黒い墨をくのもまじっていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うなぎなまずどじょう、ハゼ、イナ、などが釣れ、海では、鯛、すずきこちかれいあじきす烏賊いかたこ、カサゴ、アイナメ、ソイ、平目、小松魚、サバ、ボラ、メナダ、太刀魚たちうお、ベラ、イシモチ、その他所によつて
日本の釣技 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
烏賊いかの甲のようにキレイだったとか——色々のことを私は聴いた。
佐渡島では特に烏賊いかの塩辛だけをキリゴメというそうだが、これは塩とこうじと烏賊のわたとを合せたものへ、生烏賊を小さく刻んで入れ、瓶の中で醗酵させたものというから今の普通の製法とはちがい
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
泣いて烏賊いかつる、その舟の火の、やゝありて、イルミネエシヨン。
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
と、そのとき烏賊いかの墨のようなものが急に身うちにひろがった……
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
卯吉爺はそう言いながら、酒のさかな烏賊いかの塩辛を運んできた。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
と言つて、平気でかますや烏賊いかなままゝで頬張つてゐた。
象徴の烏賊いかは、好んでインキを射出する。
象徴の烏賊 (新字旧仮名) / 生田春月(著)
烏賊いかがあるなら、烏賊をもらおうか」
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
烏賊いかはゑびすの国のうらかた 重五
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)