洞窟どうくつ)” の例文
大友君が洞窟どうくつのとりことなった夜のあくる日、少年たちは、学校からかえると、すぐに、島田少年のおうちにあつまってきました。
透明怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
爪牙そうがの鈍った狼のたゆたうのを、大きい愛の力で励まして、エルラはその幻の洞窟どうくつたる階下の室に連れてこうとすると、幕が下りる。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかしやがてだれにもわかることである。生涯中少なくも一度はこの不可解な暗い洞窟どうくつにはいらない者は、おそらくないであろう。
やがてきついたところはそそりおおきないわいわとのあいだえぐりとったようなせま峡路はざまで、そのおくふかふか洞窟どうくつになってります。
永遠の薄明のうちに展開してゆく五幕——森、洞窟どうくつ、地下道、死人の室——を通じて、ようやく小島の小鳥が幾羽かもがいてるのみだった。
復一は精も根も一度に尽き果て、洞窟どうくつのように黒く深まる古池の傍にへたへたと身を崩折らせ、しばらく意識を喪失そうしつしていた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
洞窟どうくつの壁がうごきだした。窓の外を、ふかがさっと通りすぎた。間もなく窓外そうがいは、まっくらとなった。三角暗礁を出たのである。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これはスコットランドの「フィンガルの洞窟どうくつ」を訪ねて、その大景観に驚き、一篇の序曲として書いた有名な風景画詩である。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
帰って見ると、奇麗なうちから急に汚ない所へ移ったので、何だか日当りの善い山の上から薄黒い洞窟どうくつの中へはいり込んだような心持ちがする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これよりして、くちまでの三里余りよは、たゞ天地てんちあやつらぬいた、いはいしながれ洞窟どうくつつてい。くもれても、あめ不断ふだんるであらう。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
間もなく南洲なんしゅう終焉しゅうえんの地というのに辿り着いて俥から下りた。大将がかくれていた岩崎谷いわさきだに洞窟どうくつにも敬意を表した。引き返して城山へ登りながら
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
まるで小さな洞窟どうくつのなかにぎっしり詰め込められている不思議と可憐かれんな粘土細工か何かのように夢のなかでは現れてくる。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
人類がまだ草昧そうまいの時代を脱しなかったころ、がんじょうな岩山の洞窟どうくつの中に住まっていたとすれば、たいていの地震や暴風でも平気であったろうし
天災と国防 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼はほんとうに、先祖伝来の家具をいかにも気持よく置いているこの暖かい部屋を洞窟どうくつに変えるつもりなのだろうか。
変身 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
洞窟どうくつへ向ってものをいうように、自分の声が自分の耳へがあんと返ってくる。——それ程、人気ひとけが感じられなかった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
星岡窯のAの発見と出資によって掘り下げていった洞窟どうくつの陶土、……それは容易に翁の使者の命ずるままうままには諾するところがなかったらしい。
その下に立って見上げると、深い大きな洞窟どうくつのように見える。ふくろうの声がその奥にしていることがある。
闇の絵巻 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
たえず風に吹きさらされて、つやのでた黒い岩も見えます。水のおもてからまっすぐにきでてる岩のはしらもあちこちにありますし、入口のせまい、暗い洞窟どうくつも見えます。
満山に湧くせみの声も衰えた。薄明の中、私達は部隊に着いた。道から急角度にそそり立つ崖に、大きな洞窟どうくつを七つ八つも連ね、枯れた樹などで下手な擬装ぎそうをしている。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
洞窟どうくつのような、人工照明の船室へ、むりやりに入れられたが、そこには、テエブルのむこうに、帽子をななめにかぶって、巻たばこの吸いさしを口の隅にくわえたなり
それより洞中どうちゆう造船所ぞうせんじよないのこくまなく見物けんぶつしたが、ふとると、洞窟どうくつ一隅いちぐうに、いわ自然しぜんえぐられて、だいなる穴倉あなぐらとなしたるところ其處そこに、嚴重げんぢうなるてつとびらまうけられて
ことに清冽せいれつ豊富なるヨルダン川の水源でありまして、たきありふちあり、急湍きゅうたんあり洞窟どうくつあり、大瀑のひびきによりて淵々呼びこたえ、波は波を乗り越えてゆく壮観を呈しました。
彼はふり向いて、灌木の繁みを押し分けながら、うしろにある小さな洞窟どうくつ、というよりも、岩の裂目といったくらいの、暗い穴の中に入り、すぐに食器を持って出て来た。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
みなその陰気なる洞窟どうくつをいでてわしのまわりにつどえ。わしはわしの霊を汝らの手に渡すぞ。わしはわしに生を与えたるものにそむき、永劫えいごうに汝らに属することをちかうぞ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
それはコンクリイトの第二石段にのぼる洞窟どうくつの空虚な境で、再び彼女は奇異な笑聲を立てた。
はるあはれ (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
最初にニライスクからアマンすなわち寄居貝やどかりが飛び出し、その次に人間の男女が出てきたというなども、洞窟どうくつか自然の割れ目かは知らぬが、とにかくに大地の続きであって
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
裸の大きい岩が急な勾配こうばいを作っていくつもいくつも積みかさなり、ところどころに洞窟どうくつのくろい口のあいているのがおぼろに見えた。これは山であろうか。一本の青草もない。
猿ヶ島 (新字新仮名) / 太宰治(著)
せいぜい永くても四五時間——(タバコの煙を吹き出しながら、洞窟どうくつの中を見まわす)
胎内 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
う納まって見ると、我輩もさながら、洞熊ほらくまか、洞窟どうくつ住人だ。ところでもう寝よう。
楢ノ木大学士の野宿 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「うむ、大体この見当だ、いろいろなことから考えて、その人たちはこの滝のところまで来ていることはたしかだから、一つ、この近くの洞窟どうくつの入口のようなところを探して見よう」
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
最初に悟浄ごじょうが訪ねたのは、黒卵道人こくらんどうじんとて、そのころ最も高名な幻術げんじゅつ大家たいかであった。あまり深くない水底に累々るいるいと岩石を積重ねて洞窟どうくつを作り、入口には斜月三星洞しゃげつさんせいどうの額が掛かっておった。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
こんな気味の悪い部屋のなかに、と云うよりも、まるで野獣の洞窟どうくつのような中に、たった一人きりで、四方八方から異形いぎょうのものに取り囲まれているよりか、むしろ死んでしまいたいと少年は思う。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ですから考古學こうこがく博物館はくぶつかんといへば、とほふる時代じだい人間にんげんつくつた品物しなものならべてくのでありますが、おほきい家屋かおくだとか洞窟どうくつだとかいふものになりますと、博物館はくぶつかんなかつてることが困難こんなんですから
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
カソリック教会堂の裏庭はがけになっていて、そこに洞窟どうくつがあり、等身より稍々小さいマリアの像が安置されていた。所謂いわゆる受苦聖母という像で、双手もろてをあわせながら眼を天へ向けて祈っている姿である。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
小高き丘にのぼると自分らの洞窟どうくつが一目に見える。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
この悲哀の洞窟どうくつに繋いで置こうとするような
実にバビロンの町の胃腸であり、洞窟どうくつであり、墓穴であり、街路が穿うがたれている深淵しんえんであり、かつては華麗であった醜汚の中に
帝国ホテルも、山谷さんやあたりのドヤ街の木賃宿も、上野公園のベンチでさえも、お茶の水渓谷けいこく洞窟どうくつでさえも、差別なくかれの住まいとなりえた。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
中は月光が乱反射らんはんしゃで入って来ているところだけがうすぼんやりと明かるいが、他は洞窟どうくつのようにまっ黒で、何も見えない。骸骨も見えないのだ。
骸骨館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたくしいそいでいわからりてそこへってると、あんたがわず巌山いわやまそこに八じょうじきほどの洞窟どうくつ天然てんねん自然しぜん出来できり、そして其所そこには御神体ごしんたいをはじめ
埃及エジプトのカタコンブから掘出した死蝋しろうであるのか、西蔵チベット洞窟どうくつから運び出した乾酪かんらく屍体したいであるのか、永くいのちの息吹きを絶った一つの物質である。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
小太郎山の山ふところ、石垣いしがきをきずき洞窟どうくつをうがち、巨材きょざい巨石でたたみあげたとりでのなかは、そこに立てこもっている人と火気で、むろのようにあたたかい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
テームスは彼らにとっての三途さんずの川でこの門は冥府よみに通ずる入口であった。彼らは涙のなみに揺られてこの洞窟どうくつのごとく薄暗きアーチの下までぎつけられる。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
靴拭蓆くつふきむしろの舟、奇怪な獣のいる床石ゆかいし洞窟どうくつ、そんなものさえもうなくてすむ。自分の身体だけでたくさんだ。
一軒の建物の階下は、奥行が深く、天井が低くて、四方の壁も天井もすすけきっている洞窟どうくつのような部屋だった。その部屋は、街道に面して間口が開け放しになっている。
流刑地で (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
一方ではまたわが国の科学者がおりにふれてはそのいわゆるアカデミックな洞窟どうくつをいでて火災現象の基礎科学的研究にも相当の注意を払うことを希望したいと思う次第である。
函館の大火について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
洞窟どうくつ洞穴ほらあなの中にらしていたこと、その人たちが木のみきで小屋をつくることをおぼえるまでには、長い長い時代がたったこと、そして、一部屋ひとへやしかない丸太小屋まるたごやから進歩しんぽして
う納まって見ると、我輩わがはいもさながら、洞熊ほらくまか、洞窟どうくつ住人だ。ところでもう寝よう。
楢ノ木大学士の野宿 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
男が戻って来ないとすれば、冬ごもりの用意と食物を集めなければならない。二人は川の近くに洞窟どうくつをみつけ、鳥や魚や、草の根、木の実など、喰べられそうな物をできる限り集めた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「フィンガルの洞窟どうくつ」は少なくとも二十枚くらいの違った吹込みがあるだろう。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)