法螺貝ほらがい)” の例文
夜が明けると、相も変らず寄せ手の激しい攻撃が始まって、鉄炮の音、煙硝えんしょうの匂、法螺貝ほらがい、陣太鼓、ときの声などが一日つゞいていた。
……突込んで行く軍兵の声、狂奔する馬のいななき、それを押包むような陣鉦じんがね法螺貝ほらがいの音が、伊勢の山野にすさまじく響きわたった。
蒲生鶴千代 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼は早く起き、遅く寝て、耕作に怠りなく働いていると、あるとき村内で大きい法螺貝ほらがいを見つけた。三升入りの壺ほどの大きい物である。
そう気がついて、やぐら柱にかけてあった陣貝じんがいひもをはずし、金嵌きんかん法螺貝ほらがいにくちびるをあてて、いきのあるかぎりいてみる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの喇叭らっぱに似ているのもやはり法螺貝ほらがいと云うのであろうか? この砂の中に隠れているのは浅蜊あさりと云う貝に違いない。……
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と言葉の切れぬうち法螺貝ほらがいの音ブウ/\/\。文治が船に足を掛けるやいなや、はや船は万年橋の河岸を離れました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
法螺貝ほらがいを手に取ったことはあっても、未だかつて吹いたことはない。山伏にも因縁がないから、貝の音に耳を驚かされた記憶も持合せておらぬのである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
五月雨のため水嵩みずかさが増したと言って、沿岸の民家を警戒するために夜中に法螺貝ほらがいを吹き立てるというのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
鉄砲足軽を真っ先に立て弓方やり方を段々に備え、浪人組に旗本を守らせ、あるいは騎馬、または徒歩かち、狩犬の群を引卒し小荷駄兵糧を殿しんがりとして、太鼓、陣鉦じんがね法螺貝ほらがいの音に
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その龕子がんす一つでも二百円以上三百円位するそうです。で右の腕には小さな法螺貝ほらがいから腕環うでわ、左の腕には銀の彫物ほりもののしてある腕環を掛けて居る。それから前垂まえだれは誰でも掛けて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その時、今まで反耶の横に立って、卑弥呼の顔を見続けていた彼の弟の片眼の反絵はんえは、小脇に抱いた法螺貝ほらがいを訶和郎の眉間みけんに投げつけた。訶和郎は蹌踉よろめきながら剣の頭椎かぶつきに手をかけた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ある時夫人が、しまに遊んだ土産みやげとして、大きな法螺貝ほらがいを買って帰った。
し今川方から大高に兵糧を入れる気配があったら、大高に間近い鷲津、丸根の二城は法螺貝ほらがいを吹き立てよ、その貝を聞いたら寺部等の諸砦は速かに大高表に馳せつけよ、丹下、中島二城の兵は
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その馬にのり、法螺貝ほらがいをこわきにかかえて、家へ帰りました。
長彦と丸彦 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
声では返事がないので、そうしきりに呼んでいた一人の山伏は、岩の上から法螺貝ほらがいをふいた。——大きく二度、三度、四度と。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伝説によれば、秦の時代に数人の女がここへ法螺貝ほらがいを採りに来ると、風雨に逢って昼暗く、晴れてから見ると其の一人は石に化していたというのである。
四辺茫漠ぼうばくたる霧の中で、鳴り響く太鼓の洞然たる音はまことに神秘的のものであったが、それに答えて赤帆の船から、法螺貝ほらがいの音の鳴り渡ったのはさらに一層神秘的であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼の病気が(彼女の涙ぐましい看病にも拘らず)しだいに重くなって、医者も薬も効かなくなり、もはや死を待つばかりになったとき、山の彼方から、びょうびょうと法螺貝ほらがいの音が聞えて来た。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
たッたッたッたッ——と曹操に馳けつづく軍馬の蹄が城門に近づいたかと思うと、西門あたりに当って、陰々と法螺貝ほらがいの音が尾をひいて長く鳴った。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、土坡のような丘の彼方にも、一揆の大衆いたと見え、数百、数千、万にも余る、大勢の声が法螺貝ほらがい、竹法螺、鉄砲の音をさえそれに雑え、ドーッとあがりワーンと反響ひびいた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし咫尺しせきも弁じなかった。濛気の中を行くからであった。と、行手の一所ひとところから太鼓の音が鳴り渡った。それに答えて船中から法螺貝ほらがいの音が響き渡った。いずれも合図の音であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
姫路の池田家から応援に来た人勢にんずは、そこにもおびただしくいて、万一武蔵が出てきた場合は、法螺貝ほらがいや寺の鐘や、あらゆる音響で互いに連絡をとり、袋づつみにしてしまおうと作戦は怠りない。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日が暮れると、このお医者さんは、門の外に立って、山伏みたいに大きな法螺貝ほらがいを吹き鳴らすのである。この法螺貝の音を聞くと、ぼくのメンコ相手は、すぐ顔色を失って飛んで帰って行った。
答えて法螺貝ほらがいの高音がした。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
蟻のごとく陸続りくぞくと、これへ向って行軍中の後続隊もあるらしく、前隊との聯絡れんらくをとるための法螺貝ほらがいが遠く夏山のはるか下の方に聞えているので、ここでもたえず法螺貝をもってそれに答えていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
法螺貝ほらがいの音
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)