水馬みずすまし)” の例文
あしと蘆との間の静かなさざ波を切って水馬みずすまし川海老かわえびが小さな波紋を縦横じゅうおうに描いている。白い魚の腹も時々川底を光って潜った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東風こち すみれ ちょう あぶ 蜂 孑孑ぼうふら 蝸牛かたつむり 水馬みずすまし 豉虫まいまいむし 蜘子くものこ のみ  撫子なでしこ 扇 燈籠とうろう 草花 火鉢 炬燵こたつ 足袋たび 冬のはえ 埋火うずみび
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
沢の奥の行きづまりには崩れかかったプールの廃墟に水馬みずすましがニンプの舞踊を踊っている。どこか泉鏡花の小説を想わせるような雰囲気を感じる。
浅間山麓より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
水馬みずすましがつういつういと、泳いでいる、そのおもてには、水々しい大根を切って落したような雲が、白く浮いている、梓川の水は、大手を切って、気持のいいように、何のとどこおりもなく、すうい
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
花やかな娘の笑声が、夜の底に響いて、また、くるりと廻って、手が流れて、つまかえる。足腰が、水馬みずすましねるように、ツイツイツイと刎ねるように坂くだりにく。……いや、それがまた早い。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
灌漑用に引かれているせきへりには、すみれや、紫雲英げんげや、碇草いかりそうやが、精巧な織り物をべたように咲いてい、水面には、水馬みずすましが、小皺のような波紋を作って泳いでい、底の泥には、泥鰌どじょうの這った痕が
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
庭の井戸の石畳にいつもの赤い蟹のいるのを見て、井戸を上からのぞくと、蟹は皆隠れてしまう。こけの附いた弔瓶つるべに短い竿さおを附けたのがほうり込んである。弔瓶と石畳との間をいそがしげに水馬みずすましが走っている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
魚鼈ぎょべつ居る水を踏まへて水馬みずすまし
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
その帰るや、江を渡って行くのに、藤甲の兵はみな流れに身を浮かせて、あたかも水馬みずすましの群れが泳ぐようにやすやすと対岸へ上がって行った。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
松風に騒ぎとぶなり水馬みずすまし
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
どんよりした夕雲の影を落としている蓮池の水面に、水馬みずすましがツイツイと細い線を描いているのが、何となく夜の雨でも待つように見えました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
連れがあったのか? と出方の男が外を見廻すと、青い藺笠いがさかぶった人品のいい侍が、蓮池のほとりに立って、池の水馬みずすましに小石を投げております。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きッと見れば、こんどは二人を乗せた小舟の影が、さながら水馬みずすましのような速さで、同勢のすぐ鼻先を横ぎッた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かみへすすむほど、川幅も狭くなって、岸の両側から青芒あおすすき千種ちぐさの穂が垂れ、万吉のさおにあやつられる舟の影が、薄暮の空を映したなめらかな川面を、水馬みずすましのようにすべってゆく。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いているかみのさきから、ツイと、水馬みずすましが二、三びきおよいだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)