比目魚ひらめ)” の例文
彼は一生懸命に半七を突きのけて又逃げ出そうとするのを、背後うしろからどんと突かれて、往来のまん中へ比目魚ひらめのように俯伏して倒れた。
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私が子供の頃には、誰も比目魚ひらめを食わなかったことを覚えている。以前、メイン州の海岸では、ハドック〔鱈の類〕を食える魚だと思っていなかった。
○汐干狩の楽地として、春末夏初の風のどかに天暖かなる頃、あるいは蛤蜊こうり爪紅つまくれないの手にるあり、あるいはもりを手にして牛尾魚こち比目魚ひらめを突かんとするもあるところなり。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
今はこのあたりまで炭坑が開かれたので、最早もはや昔の面影は残っていまい。平潟に限らず、浜街道の宿では泊りは総て十七銭で、比目魚ひらめまぐろの刺身に玉子焼が普通であった。
四十年前の袋田の瀑 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
全体ぜんてい此辺こけいら浜方はまかたが近いにしちゃア魚が少ねえ、鯛に比目魚ひらめめばるむつ、それでなけりゃア方頭魚あまでいと毎日の御馳走が極っているのに、料理かたがいろ/\して喰わせるのが上手だぜ
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
比目魚ひらめを置き返すように、俯伏しにひっくり返してその帯を取り、着物を剥ぎ、懐中物、胴巻まですっかり取り上げて、本当の裸一貫として、その後——両手ではない片手を
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
はげて、くすんだ、泥絵具で一刷毛ひとはけなすりつけた、波の線が太いから、海をかついだには違いない。……鮹かと思うと脚が見えぬ、かれい比目魚ひらめには、どんよりと色が赤い。赤鱏あかえいだ。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
上手を見「やい若衆、そんなにめるな、人を睨めると手前比目魚ひらめになるぞ」といひ
はも河豚ふぐ赤魚あかお、つばす、牡蠣かき、生うに、比目魚ひらめの縁側、赤貝のわたくじらの赤身、等々を始め、椎茸しいたけ松茸まつたけたけのこかきなどに迄及んだが、まぐろは虐待して余り用いず、小鰭こはだ、はしら、青柳あおやぎ
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
例之たとへば午、吸物摘入、小蕪菁こかぶ、椎茸、平昆布、大口魚たらなます、千六本貝の柱、猪口はり/\、焼物生鮭粕漬、夕、吸物牡蠣海苔、口取蒲鉾卵橘飩きんとん青海苔をまぶしたる牛蒡鯛の小串、刺身比目魚ひらめ黒鰻まぐろ
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「ねえマリユス、わしがもしお前だったら、もうさかなより肉の方を食べるがね。比目魚ひらめのフライも回復期のはじめには結構だが、病人が立って歩けるようになるには、上等の脇肉わきにくを食べるに限るよ。」
比目魚ひらめ (本邦産) 七九・二五 一九・一六 〇・四七 一・一二
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
比目魚ひらめの恰好で海底に吸いついているのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「日比魚は比目魚ひらめか何かで?」
……と送って出しなの、肩を叩こうとして、のびた腰に、ポンと土間に反った新しい仕込みのぼらと、比目魚ひらめのあるのを、うっかりまたいで、おびえたようなはぎ白く、莞爾にっこりとした女が見える。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほとんど不思議のようで、本来からだだけは御自慢の、きゃしゃに出来ていることはいるが、それにしても、比目魚ひらめを縦にしたような形になってしまって、大木といっても、本来街路樹ですから
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
石瓦いしがわら、古新聞、乃至ないし懐中ふところからっぽでも、一度目指した軒を潜って、座敷に足さえ踏掛ふんがくれば、銚子を倒し、椀を替え、比目魚ひらめだ、鯛だ、とぜいを言って、按摩あんままで取って、ぐっすり寝て
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どうせ東京の魚だもの、誰のを買ったって新鮮あたらしいのは無い。たまに盤台の中でねてると思や、うじうごくか、そうでなければ比目魚ひらめの下に、手品のどじょうが泳いでるんだと、母様がそう云ったっけ。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)