あくび)” の例文
旧字:
亭主がようやく起き出して、そでや裾のしわくちゃになった単衣ひとえ寝衣ねまきのまま、あくびをしながら台所から外を見ながらしゃがんでいた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
良久しばらくして芋蟲いもむしくちから煙管きせるはなし、二つ三つあくびをして身振みぶるひしたかとおもふと、やがきのこしたくさなかへ這ひみました、たゞのこして
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
しまいをあくびといっしょに言って、枕へ手を添えたと見ると、小母さんはその後を言わないで、それなりふいと眉毛のあたりまで埋まりこんでしまう。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
始めはきょうを添えた彼の座談もだんだんみんなに飽きられて来た。あによめ団扇うちわを顔へ当ててあくびを隠した。自分はとうとう彼を外へ連出さなければならなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
刺されし者これを見れども何をもいはず、睡りか熱に襲はれしごとく足をふみしめてあくびをなせり 八八—九〇
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
摂待する側の人が閑殺されたような形であくびばかりしているというのも、たしかに同情に値する事実である。摂待の句としては変った種類のものといわねばならぬ。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
一同の目映まばゆがるやうな目は、泣いた跡のやうに見えてゐる。腹の透いたのと退屈したのとで、あくびが出る。
祭日 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
東照宮とうしょうぐうの前では、女学生がはでな蝙蝠傘こうもりがさをさして歩いていた。パノラマには、古ぼけた日清戦争の画かなんかがかかっていて、札番が退屈そうにあくびをしていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
結構尽けっこうづくめの御身体は弱々しくなり、しんつかれ、風邪かぜも引き易くなって、朝はあくびばかりなさいました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ピエエル・オオビュルナンは満足らしい気色で筆をいた。ぎごちなくなった指を伸ばして、出そうになったあくびを噛み潰した。そしてやおらその手を銀盤の方へ差し伸べた。
田舎 (新字新仮名) / マルセル・プレヴォー(著)
土地が土地なので、丁度今夜のような雪の夜が幾日も幾日も続く。宮沢はひとり部屋に閉じこもって本を読んでいる。下女は壁一重ひとえ隔てた隣の部屋で縫物をしている。宮沢があくびをする。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
野干獅我が忠告を容れぬから碌な事が起るまいと呟く、どんな事が起るかと問うと虎が巣から出てのびあくびし四方を見廻し三たび吼えて汝の前に来り殺さんと欲する事疑いなしと言うた
『もう全快ぜんかいしてもいいでしょう。』とハバトフはあくびをしながらことばえる
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
うするには話題はなしへるサ』とあくびをしながら三月兎ぐわつうさぎつて、『もう、此麽こんなことにはきてた。若夫人わかふじんなにひとはなしてもらはうぢやないか』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
餉台ちゃぶだいの上に両肱りょうひじを突いた叔父が酔後すいごあくびを続けざまに二つした。叔母が下女を呼んで残物ざんぶつを勝手へ運ばした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
母親も茶碗を手にしながらあくびをしだした。お庄は二人に飯を食べさしてから、正雄に小遣いを少し持たして鶴二と一緒に出してやった。正雄は暮から学校の方もしていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
大枚の国費で若い女や料理人まで伴れ行き猫のあくびほどの発言もし得なんだ人物と霄壌しょうじょうだが、このギリシア婦人が揚威せる敵軍に直入して二つしかないその夫の大事の玉を助命して帰ったは
『もう全快ぜんくわいしてもいでせう。』とハヾトフはあくびをしながらことばへる
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
接待やあくびがちなる昼さがり 畏計
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
みんなでえがくことをならつてました』と福鼠ふくねずみつゞけて、あくびをしたり、そのこすつたり、さぞねむさうに、『みんなで種々いろ/\なものをえがいてました——ネののつくものはなんでも——』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
生きた人形でも買ってもらったように喜んで、ひまさえあると、新らしいいもとそばに寄りたがった。その妹のまたたき一つさえ驚嘆の種になる彼らには、くさめでもあくびでも何でもかでも不可思議な現象と見えた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それほど大した金でもない。」叔父はあくびをしながら言っていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
三四郎はあとを尋ねる勇気がけて仕舞つた。先生はあくびひとつした。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)