おもむき)” の例文
依然としてわが格式に相応した一段と高尚なる道徳律を守って、常に郷党の精神的生活を代表せんとするおもむきのあるのは、なるほど前代の遺風といえば遺風であるが
家の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
幸いに植物が好きであったために、この九十二歳になっても、英気ぼつぼつ、壮者をしのぐおもむきがある。
叱呼しっこしながら、シャルムウズの袖をまくり、河童頭かっぱあたまを一振り振って勢い立ったる有様は、さながらシノンの野におけるジャンヌ・ダルクのごとく意気沖天のおもむきがあった。
落日の巷を行くのおもむきがあったし、ふと己の胸中に「孤独者」の嘲笑を見出すこともあったが、激変してゆく周囲のどこかに、もっと切実な「孤独者」が潜んでいはすまいかと
(新字新仮名) / 原民喜(著)
そして巣の僅かな微動にも緊張した神経が震えおののく様は、単なる触知でなしに、感情的知覚の域にまでふみこんでるおもむきがある。あのものぐさと敏感さとには、何かしら病的な不気味なものがある。
蜘蛛 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
彼の態度にはちょっと老将というようなおもむきがあった。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)