わざ)” の例文
狐のわざですよ。この木の下でときどき奇態なことをして見せます。一昨年おととしの秋もここに住んでおります人の子供の二歳ふたつになりますのを
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
瀬田せた長橋ながはし渡る人稀に、蘆荻ろてきいたずらに風にそよぐを見る。江心白帆の一つ二つ。浅きみぎわ簾様すだれようのもの立て廻せるはすなどりのわざなるべし。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
一夜に庭をつくるはなわざを演じているが、武蔵は二十八で試合をやめて花々しい青春の幕をとじた後でも、一生碌々ろくろくたる剣術使いで
青春論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
このとほりに器械觀測きかいかんそく結果けつか體驗たいけん結果けつかとは最初さいしよから一致いつちがたいものであるけれども、それを比較ひかくしてみることは無益むえきわざではない。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
相手が動きに移ろうとし、または移りかけた時に、当方からほどこすわざで、先方の出頭でがしらを撃つ出会面であいめん出小手でこておさ籠手こてはら籠手こて
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それのみならまだしも、玄関式台の拭き掃除、訪客の取次、荷担にないで水汲む類のわざまで、仲間たちと一緒にやるのが門僕の掟であった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其道そのみちに志すこと深きにつけておのがわざの足らざるを恨み、ここ日本美術国に生れながら今の世に飛騨ひだ工匠たくみなしとわせん事残念なり
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
若い女の口から、何彼と引出すのは容易のわざではありません。深川西町の小橋屋に着くまでに、平次が聞いた手掛りはたつたこれだけ。
八時今市いまいち発の汽車に乗らぬと、今晩中に日光へくことは出来ぬ。一体いったい、塩原から日光へひと跳びというのがすでに人間わざではない。
なぜといって人間が分身術の魔法でも知らない限りは、自分で自分から離れるなどいう奇態なわざが、実際にできるはずがないからだ。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
もうこうなっては此処ここにとどまることは出来ません。あなたはこの後も耕し、すなどりのわざをして、世を渡るようになさるがよろしい。
それを眺めている内に、彼の秘密好きな性癖がさせたわざであったか、咄嗟とっさの間に、彼は池内等のあとを尾行してやろうと決心した。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さてこの小さき星は、進みて多くのわざを爲しゝ諸〻の善き靈にて飾らる、彼等のかく爲しゝは譽と美名よきなをえん爲なりき 一一二—一一四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
あるひは娘共むすめども仰向あふむけてゐる時分じぶんに、うへから無上むしゃう壓迫おさへつけて、つい忍耐がまんするくせけ、なんなく強者つはものにしてのくるも彼奴きゃつわざ乃至ないしは……
……怎麼いかかれ獅子しし(畑時能が飼ひし犬の名)の智勇ありとも、わが大王に牙向はむかはんこと蜀犬しょっけんの日をゆる、愚を極めしわざなれども。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
あの試合に殺気を立てたのはみんな浜という女のなすわざじゃ、文之丞が突いた捨身すてみ太刀先たちさきには、たしかに恋の遺恨いこんが見えていた
確にわざをしたに違いませんが、もう電車を下りますまでには同類のたもとへすっこかしにして、証拠が無いから逆捻さかねじを遣るでございます
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お一層この娘を嫌う※ただしこれは普通の勝心しょうしんのさせるわざばかりではなく、この娘のかげで、おりおり高い鼻をこすられる事も有るからで。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
慣れぬわざと言葉が始めは聞き取れぬので実に困りましたが、だん/\と慣れてよくなりました。実に病院の仕事はハードで御座います。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
何故なにゆゑ御前様おんまへさまにはやうの善からぬわざよりに択りて、折角の人にすぐれし御身を塵芥ちりあくたの中に御捨おんす被遊候あそばされさふらふや、残念に残念に存上ぞんじあげまゐらせ候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「勝をうる者はこれ等の物を得てそのわざとなさん、我かれの神となり彼わが子と爲るべし。されど、」これがゆつくりと、明瞭に讀まれた
銃劒が心臓の真中心まッただなかを貫いたのだからな。それそれ軍服のこの大きなあなあな周囲まわりのこの血。これはたれわざ? 皆こういうおれの仕業しわざだ。
天の理というものは微妙なもので、この二三んち来、風がいつも同じ方向から吹いていたなんてことは、これは、まったく天のなせるわざ
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
女将、君の企んだその二役には、微妙なこと、まさに人間わざとも思われない……まるで、はたにある梭糸おさいとのような計画があったね。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
普通の母の手は、やはり人間わざですから、人間の手の中では一番自分に優しく温かな手でありますが、まだまだ及ばぬところがあります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
もしいえば人の心を傷つける心なきわざである。その気まずさに耐えないばかりでなく、自分はそれを正直と感じるよりも不作法と感ずる。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
船「有難うござりやす、旦那の方が気が丈夫だ、こうなっちゃア人間わざで助かる訳にゃアかねえ、どうか旦那、神様を信心して下せえ」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さて庶民は庶民であって、兵士となって戦争をしたり、農工商に従事して、生産のわざにたずさわったりした。また奴婢族は奴隷であった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この頭蓋骨の肉付けということはけっして容易なわざではありませんが、従来、西洋で肉付けに成功した人は稀ではありません。
頭蓋骨の秘密 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「天主さま、願わくは、その男をお裁きになりませぬように。その男は、みずからのなせしわざをわきまえぬ者でございます。」
広きみやこに知る人なき心やすさは、なかなかに自活のわざの苦しくもまた楽しかりしぞや。かくて三旬ばかりも過ぎぬれど、女史よりの消息なし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
屋上にはひさしのようなものが一間ほども外に出ばっていたし、人間わざでは、到底とうてい窓の外から忍びこむことが出来そうもなかった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
来る事は来るが、みんな驚いて逃げ出しちまいまさあ。全く普通なみのものの出来るわざじゃありませんよ。悪い事は云わないから御帰んなさい。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
己がわざが児戯に類するかどうか、とにもかくにも早くその人に会って腕を比べたいとあせりつつ、彼はひたすらに道を急ぐ。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
一点の色を注ぎ込むのも、彼に取っては容易なわざでなかった。さす針、ぬく針の度毎に深い吐息をついて、自分の心が刺されるように感じた。
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いつも申す通り、わざも一代、人も一代、いかにその方が、わしの流儀をたっとんでくれたればとて、わしとて、剣の神ではない。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
大夫が家では一時それを大きい損失のように思ったが、このときから農作も工匠たくみわざも前に増して盛んになって、一族はいよいよ富み栄えた。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
シラノのごとき虚妄きょもうな勇武に相当するものが、現実にあり得るだろうか。しかもこの詩人らは、驚天動地のわざを演じていた。
前にもいいましたように、この年になるまで父母の溺愛できあいを受けて、ここまで旅行に出るということは、私にとっては容易なわざではないのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
世を渡るにはまったく輿論よろんを無視するわけにはいかぬけれども、世人せじんの考えをのみ標準として成敗をはかることは、はなはだはかなきわざである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
また、われらの造る模型は、広大深玄であって測り知れない神のわざにはとうていかなわない。まったく神の業はデモクリタスの井戸よりも深い。
これは、まったく、びはなれたわざであります。たかい、たかい、空中くうちゅうから、りて、はるかしたられた一ぽんふとつなをつかむのであります。
二人の軽業師 (新字新仮名) / 小川未明(著)
澄夫は、こうした頓野老人の自慢の離れわざを格別、驚いた様子もなく受取った。無造作に狂女の右腕を捕まえて注射した。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
こは芸術を使命とするものには白日はくじつよりも明らかなる事実なり。然れども独自の眼を以てするはかならずしも容易のわざにあらず。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
当時横文おうぶん読むのわざはきわめてむつかしきことにして、容易に出来難き学問なりしがゆえに、これを勤めたることならん。
されば我今更となりて八重にかかはる我身のことをたねとして長き一篇の小説をいださん事かへつてたやすきわざならず。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「この人も両親も罪を犯したわけではない。盲人に生まれたのは、この人の身の上に神のみわざがあらわれるためなのだ」
この子を残して (新字新仮名) / 永井隆(著)
わが日頃ひごろちかひそむくものなればおほせなれども御免下ごめんくだされたし、このみてするものはなきいやしきわざの、わが身も共々とも/″\牛馬ぎうばせらるゝをはぢともせず
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
これ世に悪人の跋扈ばっこするを神のわざなりと認めて、神をあざけりし語である。しかし真の神を嘲ったのではない、友人の称する所の神を嘲ったのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
聞くにもつらしいふもうし、まして筆もてしるさむは、いといたましきわざなれど、のちに忍ばんたよりとも、思ふ心に水茎みづぐきの、あとにくこそのこすなれ
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)