とが)” の例文
山小屋ヒュッテは、広い料理場と乾燥室のついた、二階建のがっちりした建物で、大きな広間の天井には煤色のとがの太いはりがむきだしになっている。
糸杉やこめとがの植木鉢がぞろっとならび、親方らしい隅のところで指図をしている人のほかに職人がみなで六人もいたのです。
ポラーノの広場 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
暗いとがもみの空が燃えるように赤く染まった時、彼は何度も声を挙げて、あの洞穴を逃れ出した彼自身の幸福を祝したりした。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
越えて來た方はかひから峽、峰から峰にかけて眼の及ぶ限り、一面の黒木の森であつた。とがもみなどの針葉樹林であつた。
高山寺の僧明恵がとがノ尾へ植えたとかいう話は、じつは自然に野生していたところへ、単に茶の飲み方だけの輸入をしたに違いないことが分った。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
とがの尾は高尾に比して瀟洒しょうしゃとして居る。高尾から唯少し上流にさかのぼるのであるが、此処のもみじは高尾よりもめて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
茂庭家の屋敷のあるとがしょう村は、その裏道から「松山」を越してゆくのが近い。彼は松山への坂を登っていった。
月の松山 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
仰向いて空の方を透すと空は蒼白くなって、光のなくなった星が二つばかりとがの木の梢にかかっていた。
山の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そう念を入れてき込みもしなかった北山の杉やとがの柱が年相応のつやを持ち出して、これからそろそろ京都の老人の気に入りそうな時代が附いて来るのである。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その頃は売立の会などにしましても、今日ほど繁々あるわけでもありませず、時折祇園のとが辺で小規模に催されるくらいでした。したがってそんな会は私にとっては大切な修業場でした。
座右第一品 (新字新仮名) / 上村松園(著)
そのほか四条派しじょうはの画には清水きよみずの桜、とが紅葉もみじなどいふ真景を写したのがないではないやうであるが、しかしそれは一小部分に止つてしまつて、全体からいふと景色画は写生でないのが多い。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
雪は一面にとがもみの森林を埋めつくし、その梢ばかりが僅かに表はれてゐる荒涼たる原野の樣な中で、杜鵑と郭公とはかたみがはりに啼いてゐたのであつた。
玄関のつづきは大きな広間で、天井にとがの太い梁がむきだしになり、正面に丸石を畳んだ壁煖炉がある。広間の右端の階段から中二階の寝室にあがるようになっている。
肌色の月 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
つやつやとき込んだとがの柱が底光りをしていようと云う、古風な作りであった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
空にはもみとがの枝が、暗い霧を払いながら、悩ましい悲鳴を挙げていた。彼は熊笹を押し分けて、遮二無二しゃにむにその中を下って行った。熊笹は彼の頭を埋めて、絶えず濡れた葉を飛ばせていた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
とが白樺しらかばなどがいじけた枝を張ってぼつぼつ生えている間を通って、山のうねになったところを廻ると、大きな岩のそびえている下へ出た。そこにはこけの生えた清水のたまっている岩穴いわあながあった。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
さうなると植物上の知識の乏しいのをも悲しまねばならぬことになるが、兎に角他の石楠木と比べて葉が甚だ細くて枝が繁い。檜やとがの大木の下にこの木ばかりが下草をなしてゐる所もあつた。
鳳来寺紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
とがに吹きつけられた雪が団子だんごのようにかたまりついて、大きな雪人形のような奇怪なようすで立っている、降ったばかりの雪の上に、シュプールが、一本、まっすぐにその方へつづいている。