つが)” の例文
頂上附近にはサルオガセをつけたつがや五葉松が多い。けれども石斛せっこく巻柏いわひばは少ないようである、植木取りに乱採された結果であろう。
奥秩父 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
翌晩、坊舎の窓を叩き、おとなう声がした。雨戸を開けると、昨夜の狸が手につがの小枝をたずさえ、それを室内へ投げ入れて、逃げ去った。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
横の方へ廻るとつが面取格子めんとりごうししまって居りますから、怖々こわ/″\格子を開けると、車が付いて居りますから、がら/\/\と音がします。
ふちが深くて、わたれないから、崖にじ上る。矢車草、車百合、ドウダンなどが、つがや白樺の、まばらな木立の下に、もやもやと茂っている。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
一昨日おととい別段気にもとめなかった、小さなその門は、赤いいろのそう類と、暗緑のつがとでかざられて、すっかり立派に変っていました。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
二本の高いつがの樹をその左右にして、本堂を覆うた欅や楓の大樹のひろがった、枝は川の方へ殆んど水面とすれすれに深く茂り込んでいた。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
從つてその持つた森林帶には、扁柏、つが山毛欅ぶななどが一面に密生して、深山でなければ見ることの出來ない原始的のカラアに富んでゐる。
日光 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
木口のよい建物も、小体こていに落着きよく造られてあった。笹村はつがのつるつるした縁の板敷きへ出て、心持よさそうに庭を眺めなどしていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
小さいのは小さいなりに深い色に染つてゐた。多くはつがらしい木の、葉も幹も真黒く見えて茂つてゐるなかに此等の紅葉は一層鮮かに見えた。
木枯紀行 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
一里ほどでつがの林となる、ジメジメと土は濡れて心持がわるい。折々白い霧は麓から巻き上げてきて、幹と幹との間を数丁の隔たりに見せる。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
「矢を射かけられた、鹿込の山をおりる途中で、つがの林の中から矢を射かけた者があった、紛れはない、姿も見たぞ」
太吉が指さす向うの森の奥、大きいもみつがのしげみに隠れて、なんだか唄うような悲しい声が切れ切れにきこえた。
木曽の旅人 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
熊笹の中をけ下ると、つがもみなどの林に這入はいる。いかにおおきな樹でも一抱ひとかかえぐらいに過ぎないが、幹という幹には苔が蒸して、枝には兎糸としが垂れ下っている。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
もみつがさわらけやきくり、それから檜木ひのきなぞの森林の内懐うちぶところに抱かれているような妻籠の方に、米の供給は望めない。妻籠から東となると、耕地はなおさら少ない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
茫漠ぼうばくとして広い青茅あおちの原に突っ立ったつがの老木から老木へ、白い霧が移り渡って、前白根の方へ消えいく。
雪代山女魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
庭先に、おおきなつがの木が泥水の中に倒れていた。他の樹も、あらかたは、根をきだしているのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
声はうしろでする。雨戸のみぞをすっくと仕切ったつがの柱を背に、欽吾は留ったらしい。藤尾は黙っている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もみ落葉松からまつつがなどのように、深山に生ずる植物は、深山の風景に合わせて見なければ趣が少ない。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
小僧 (木挽を呼びにくる)きのう挽いたつがが寸法違いだというぜ、治平さんちょいと来なよ。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
つがでこしらえて、長さが二間の二つ切り一本、高さは六尺、そのうち二尺五寸は根になりまさあ、横板の長さが四尺に厚さが一寸、それを柱一本につき五ちょうずつ、つまり
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
つがの木の夕日にむかふわが眺め早やさむざむしうちへはひらむ
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
椈の大木に交ってつが黒檜ねずこなどが岩崖に生えている。石楠しゃくなげが出て来た。附近には野生の杉もある。杉と石楠を一所に見たのは初めてだ。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
ぼんやりつがの老木の根元にしゃがんで、二時間も三時間も高い頂に登ったり下りたりしている蟻の行列を眺めたりしていた。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
と云いながら、つが面取格子めんとりごうしを開けると、一けんの叩きに小さい靴脱くつぬぎがありまして、二枚の障子が立っているから、それを開けて文治が入りました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
遺念かたみになった、昨年は河童かっぱ橋から徳本峠まで、落葉松からまつの密林が伐り靡けられた、本年は何でも、田代池のつがはらってしまうのだそうであるが、あるいはもう影も形もなくなって
上高地風景保護論 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
糸杉いとすぎやこめつが植木鉢うゑきばちがぞろっとならび、親方はもちろん理髪アーティストで、外にもアーティストが六人もゐるんですからね、殊に技術の点になると、実に念入りなもんでした。
毒蛾 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
菱餅ひしもちの底を渡る気で真直まっすぐな向う角を見ると藤尾が立っている。濡色ぬれいろさばいた濃きびんのあたりを、つがの柱にしつけて、斜めに持たしたえんな姿の中ほどに、帯深く差し込んだ手頸てくびだけが白く見える。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼はまた、わずかにつがの実なぞのあかたまのように枝に残った郷里の家の庭を想像し、木小屋の裏につづく竹藪たけやぶを想像し、その想像を毎年の雪に隠れひそむ恵那山えなさん連峰の谿谷けいこくにまで持って行って見た。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
多摩川原早瀬はやせにうつるつがの木の春浅うして人うぐひ釣る
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
もみつが、檜、唐繪たうび黒檜くろび、……、……。」
みなかみ紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
少し下ると美しいつがの林に抱き込まれる。暫くして清冷な水が湧き出しているので、半日の渇を癒すことを得た。
美ヶ原 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
幾抱えもある大きなつがが立っていて、どんなに雨が降ってもその根元を湿すことがなかった。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
川の両岸——といってもどてを築いた林道を除く外は、殆ど水と平行している——には、森林がある、もみつが白檜しらべなど、徳本峠からかけて、神河内高原を包み、槍ヶ岳の横尾谷
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
其大仏餅屋そのだいぶつもちや一軒いつけんおいて隣家となりが、おもてこまかつが面取めんどりの出格子でがうしになつてりまして六尺いつけんとなりのはうあら格子かうし其又側そのまたわき九尺くしやくばかりチヨイと板塀いたべいになつてる、無職業家しもたやでございまする。
御嶽山より流れ出る川(王滝川おうたきがわ)においては、冬の季節に当たって数多あまたの材木をり出す作業というものがある、それはおもにひのきすぎつが、および松の種類であるが、それらの材木を河中に投げ入れ
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これに配するに落葉松や白樺などの木立があれば更によく、し原の一隅につがの林でもあって、水が流れているか清水が湧き出していれば一層よいのである。
高原 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
境内の大きなつがに寒い風が轟々ごうごうと鳴るような晩や、さらさらと障子をなでてゆく笹雪のふる夜など、ことに父と二人で静かにいろいろな話をしてもらうことが好きであった。
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ここに川縁の広い沙原——下樺しもかんばという——を見つけて、今夜の野営を張ることにした、床はつがの葉でき敷めた、屋根はいつもの油紙である、疲れた足を投げ出して、荷の整理にかかる
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
この針木とあるものは、恐らく針木はりのき峠の北に聳えている針木岳のことであろう、つがは赤沢岳が爺岳に対する越中人の称呼である(このことは後に述べる)。
秋になるとつがの実が、まるで松笠のように枝の間に挟まれて出来た。だんだん熟れると丁度とびの立っているようになって、一枚一枚風に吹かれるのであった。遠くは四、五町も飛び吹かれた。
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
杜鵑ほととぎすがしきりに啼く、湯治の客が、運んだぼれ種子からであろうが、つがの大木の下に、菜の花が、いじけながらも、黄色に二株ばかり咲いていた、時は七月末、二千米突メートルの峠、針葉樹林の蔭で!
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
甲州方面の青木ヶ原は、大小の熔岩がごろごろしているにかかわらず、主としてつがもみなどの大森林が昼尚お暗く繁って、其中で道に迷うと容易に出られない。
春の大方山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
ゆうべの空の色などは、美しく濃く、美しく鮮やかで、プルシアンブルーが、谷一面の天を染めている、その下に、ずらりと行列して、空の光が雨のようにふりそそぐに任せている谷の森林は、もみつが
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
針葉樹の主なるものは唐檜白檜であるが、つが姫小松ひめこまつ・ネズコ(黒檜)等の大木も少くない。落葉松は東沢や針ノ木谷になりの面積ある純林を成している。
黒部峡谷 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
左は丈の低い黒木の密林である。暫くして右側につがの古木が一本立っている所から路は左斜に密林の中に入る。察するにこの栂は目標として保存されているものであろう。
三国山と苗場山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
仰ぎ見ると上流は、かんばつがの類が崖の端から幹と幹、枝と枝とをすり合せて奥へすくすくと立ち並んでいるのが眼に入る許りで、水は何処をどう流れて来るのか皆目分らない。
釜沢行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
一面に青青と繁った短い笹を下草にしてかんばはんのきの類などの交ったつがの深い林である。それは勿論木立がそれ程珍らしい訳ではない、秩父あたりにもこれ位の森林はいくらもある。
秋の鬼怒沼 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
此処では河が二股に岐れて中央に島が横たわり、島は細かい砂に蔽われて、二かかえもある大きなドロヤナギや川楊かわやなぎなどが鬱蒼と茂っているし、それに交ってつが白檜しらべや唐松などもありました。
日本アルプスの五仙境 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
霧藻の垂れ下ったつが唐檜とうひなどの立派な針葉樹林である。
つがの大木やかえでなどが茂り合って、稍や深山の趣がある。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)