このみ)” の例文
人は皆かくれてエデンのこのみくらって、人前では是を語ることさえはずる。私の様に斯うして之を筆にして憚らぬのは余程力むから出来るのだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
われは枝上のこのみに接吻して、又地に墜ちたるを拾ひ、まりの如くにもてあそびたり。友の云ふやう。げに伊太利はめでたき國なる哉。
がけ溝端どぶばた真俯向まうつむけになって、生れてはじめて、許されない禁断のこのみを、相馬の名に負う、轡をガリリと頬張る思いで、馬の口にかぶりついた。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
忽然こつねんとして其初一人来りし此裟婆に、今は孑然げつぜんとして一人立つ。待つは機の熟してこのみの落つる我が命終みやうじゆうの時のみなり。
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
……天地開闢かいびゃくの始め、イーブに智慧のこのみを喰わせたサタンの蛇が、更に、そのアダム、イーブの子孫を呪うべく、人間の頭蓋骨の空洞に忍び込んで
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
〔己が益なる〕意志の銜(禁斷のこのみに就いて意志の上に神の加へ給ひし制限)に堪ふれば己が益なるを、しかせずして
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
今井は、かねてから京子の美しさに心をひかれていたが、妻があったときは、遊び人たる彼もそれを禁断のこのみだと思っていた。今では必ずしも、そうでない。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
だが果物畑といふものは、今の樣にこのみが一つもない時候になつたつて、また今夜のやうに樹の姿がそれとしか闇のなかに見えなくなつて、すがすがしい氣持がするものだ。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
禁斷のこのみの味を想像する事も出來るやうになり、自分が如何にして、何處から生れて來たかも了解するやうになり、先生にも父親にも、其の行爲のある事を承認したが、それでも未だ
貝殻追放:016 女人崇拝 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
人間の樹の中央まんなかにつけたせいこのみおほふのは
南洋館 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
えて落ちたるこのみかと、ああよ、空に
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
摘まぬに腐るこのみでも、日毎に若葉の
夏の圖を見れば、童ども樹々のめぐりを飛びかひて、枝もたわゝに實りたるこのみを摘みとり、又清き流を泳ぎて、水をもてあそびたり。秋は獵の興を寫せり。
雛芥子ひなげしくれないは、美人の屍より開いたと聞く。光堂は、ここに三個の英雄が結んだ金色こんじきこのみなのである。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたしの今の時期はああ、そのこのみ眞茂ましげる葉から日にさしのばす初夏の時期
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
かゝるとき、母上は杖のさきにて窓硝子を淨め、なんぢ井に墜ちて溺れだにせずば、この窓に當りたる木々の枝には、汝が食ふべきこのみおほく熟すべしとのたまひき。
自然は私に教へた、わたしの心は青くかたこのみのやうであることを。
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
殘りのものに何時知らず孕みしこのみ……
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)