がたき)” の例文
最初のうち伝さんは、その出迎男でむかえおとこを、何処かインチキなホテルの客引かなんかであろうと考えた。そして、五月蠅うるさい商売がたきだと思った。
三の字旅行会 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
この商売がたきでもあり、親しい友だちでもある民間探偵から、事の仔細しさいを聞き取ると——彼は今宵こよいの明智の計画についてよく知っていたから
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
新生寺住職ともあろうものが、謂わば商売がたきも同然な天光教へ行って死んだ、というのが問題になっているらしいのだ。
むかでの跫音 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
しかし、東京へ行くとすれば、第一に、専売新聞、次に商売がたきの桜映画会社である。この二つが大資本に物を云わせて、名選手を縦横無尽にひッこぬいている。
投手殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
山も、森も、水も、やぶも、見渡す限りは自分の家の屋敷内である——ここは、過ぐる夜、弁信法師と二人で、わが家の焼ける炎を見て、思う存分はながたきとなったところだ。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
くとお前さんの了簡をきいた上で、ねえ、また膝とも談合というから話しがたきにもなるつもりなの、ちっとも遠慮することはないから、本当ほんとのところを言ってきかせて下さい
「女を信ずるな。女の変わりやすき心に身を投げ出すものは不幸なるかなだ。女は不実にして邪曲である。女は商売がたきの感情でへびをきらうのだ。蛇は女と向かい合いの店だ。」
京人形のような顔をした、あどけない娘で、顎十郎とはごくごくの言葉がたきである。
顎十郎捕物帳:03 都鳥 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
年代順に繰つて行つて五年前、享和元年に友だちの小沢蘆庵が七十九歳で死に、仕事がたきの本居宣長が七十三で死んでゐるところまで来ると彼は微笑してつぶやいた——生気地いくじなし奴等めらだ。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
近辺の大店おおたな向きやお屋敷方へも手広く出入りをするので、町内の同業者からはとんだ商売がたきにされて、何のあいつが吉新なものか、煮ても焼いても食えねえ悪新だなぞと蔭口かげぐちたたく者もある。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
さあ収容おぼつかない。自力にあまるならあまるで、SS頼む、弱った、助けてくれでいい。そりゃ平生は平生、そうでがしょう。向うと此方こっちだ。商売がたきだ。つの突き合いならどっちもどっちだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
木理もくめうるはしき槻胴けやきどう、縁にはわざと赤樫を用ひたる岩畳がんでふ作りの長火鉢に対ひて話しがたきもなく唯一人、少しは淋しさうに坐り居る三十前後の女、男のやうに立派な眉を何日いつ掃ひしか剃つたる痕の青〻と
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
長崎で一と身上こせえた長崎屋七郎兵衛の一家が、あんまりボロい儲けをしたので、長崎を引揚げて、江戸へ来てから三年にもなるというのに、元の商売がたきからひどい嫌がらせをされて居るんです。
商売がたきに対して非難めいた口を利いた事を、はにかんでいるのだと考える外はなかった。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
出尻伝兵衛でっちりでんべえ、またの名を「チャリがたき」の伝兵衛ともいう、神田鍋町なべちょうの御用聞。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
木理もくめうるわしき槻胴けやきどう、縁にはわざと赤樫あかがしを用いたる岩畳作りの長火鉢ながひばちむかいて話しがたきもなくただ一人、少しはさびしそうにすわり居る三十前後の女、男のように立派なまゆをいつはらいしかったるあとの青々と
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)