抽斗ひきだし)” の例文
(その内娘は左手の箪笥を開け探す。画家絵具入の抽斗ひきだしを抜きいだす。)ここだ、ここだ。(抽斗にある艶拭巾つやぶきんを二枚いだして投げる。 ...
箪笥や用箪笥の抽斗ひきだしが取り散らされているのを見ると、かれは目ぼしい品物を持ち出して、どこへか駈け落ちをしたらしく思われた。
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「待ってくれ、三輪の兄哥、——お寿の家から剃刀を盗み出せる曲者くせものなら、鏡台の抽斗ひきだし屑籠くずかごから抜け毛を持出すのは何でもないぜ」
主任の女のひとが自分のテーブルの抽斗ひきだしから、一束の黄色や白のバラバラの型の紙束に鉛筆で何か書いてあるものを見せてくれた。
打あけ話 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それに返事をしなかつたみのるは、膳を片付けてしまふと箪笥の前に行つて抽斗ひきだしから考へ/\いろ/\なものを引出して其所に重ねた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
卓の抽斗ひきだし抜き出しありて、手を着けたるものと見ゆれども、猶許多きよたの物件の残りをるを見る。鉄製小金庫一箇、敷布団の下にあり。
あの人はそれから、椅子に腰をかけて、抽斗ひきだしからきり紙撚こよりをとり出し、レター・ペーパーの隅っこに穴をあけてそれをつづりこんだ。
「アラ、厭なの。じゃ、何かそこでしていんじゃない? 抽斗ひきだしや、下着入れを覗いているんだったら、今のうちにしまうことよ……」
一週一夜物語 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その後いつの間にか、亜砒酸をのむことをやめたが、その残りがまだびんの中に入れられて、机の抽斗ひきだしの奥に貯えられてあったのである。
死の接吻 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
居先きは明さないが、一度お前が後始末の用ながらに婆さんの処へ寄って、私の本箱を明けて見たり、抽斗ひきだしを引出して見たりして
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
バルバラは老年と不安とでふるへながら、抽斗ひきだしをあけたりしめたり、杯の中へ粉薬を入れたりして、忙しく室の中を歩きまはつてゐる。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
几帳面きちょうめんなたちですから、抽斗ひきだしの中でも文庫の中でも、キチンとして置くのに、それがよく乱れていますの。本当にあさましいと思うわ
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
机の抽斗ひきだしを開けてみると、学校のノートらしいものは一つもなかった。その代りに手帳に吉原のうちの名や娼妓しょうぎの名が列記されてあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
瀬川は机の上の手紙を慌ててかくし、抽斗ひきだしの中へしまい込むと、それから机に背をもたらせて寄りかかりながら「まあ、お座り」と言った。
靴以外のものは何もいではゐなかつたのだ。幾枚かの下着類したぎるゐ形見筐ロケット一つ、指環一つが抽斗ひきだしの何處に入つてゐるか私には分つてゐた。
て、ぷんかをりのたか抽斗ひきだしから、高尾たかを薄雲うすぐも一粒選ひとつぶえりところして、ずらりとならべてせると、くだん少年せうねん鷹揚おうやうたが
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
キツプリング、ブラツクウツド、ビイアスと数へて来ると、どうも皆そのつくゑ抽斗ひきだしには心霊学会の研究報告がはひつてゐさうな心持がする。
近頃の幽霊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
……お前さんの網道具の小函の抽斗ひきだしに火繩の屑と火口が入っていた。これなんざア、まず、のっぴきならねえ証拠というほかない
顎十郎捕物帳:18 永代経 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
私の四畳半に置く机の抽斗ひきだしの中には、太郎から来た手紙やはがきがしまってある。その中には、もう麦をいたとしたのもある。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お浜は箪笥たんす抽斗ひきだしをあけて、あれよこれよと探しはじめましたが、そのうちにふと抽斗の底から矢飛白やがすりあわせを引張り出しました。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
懐からそっと盗すむようにして紙幣さつの束を出したが、その様子は母が机の抽斗ひきだしから、紙幣さつの紙包を出したのと同じであったろう。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
毎日欝陶うっとうしい思いをして、縫針ぬいはりにばかり気をとられていた細君は、縁鼻えんばなへ出てこのあおい空を見上げた。それから急に箪笥たんす抽斗ひきだしを開けた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
行李こうりのふたをあけ、文庫をぶちまけ、果ては、長火鉢から針箱の抽斗ひきだしまで引っかき廻して反古ほごらしいものを片っ端からあらためはじめた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お前は、気前よくお前の抽斗ひきだしけながら、こう言った、「さ、持って行きたまえ」。ところが、お前はびっくりした。抽斗はからだった。
女主人は女中に言い附けて、鏡台の抽斗ひきだしから元結を出して来させた。岡田はそれを受け取って、鳥籠の竹の折れた跡に縦横に結び附けた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
私は久しい前から机の抽斗ひきだしを掃除しようと思っていたのだ。私は三十年来、同じ机の中へ手紙も勘定書もごたごたに放り込んでいたからだ。
と兄は嫂にいい付けて、箪笥たんす抽斗ひきだしを、あけて見せました。小紋とか大島とか母の生前の羽織や着物の何枚かが、そこに畳んであるのです。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
彩牋堂記の拙文は書終ると直様すぐさま立派な額にされたが新曲は遂に稿を脱するに至らずその断片は今でも机の抽斗ひきだししまわれてある。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
書物卓デスクのそばへ行くと、彼は仔細にもう一度その金をあらためてから、やはり非常に用心深く、それを抽斗ひきだしの一つへしまった。
それでも机の抽斗ひきだしには小さな鏡が入れてあって、時によると一時間もランプの下で鏡をにらめている事がある。風采はあまり上がらぬ方である。
まじょりか皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
つやめかしくパッとくりあげられたままであり、下の抽斗ひきだしが半ば引き出されて、その前に黄楊櫛つげぐしが一本投げ出されているではございませんか。
幽霊妻 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
そうして、かの二通の手紙が再びもとの抽斗ひきだしに戻っているのを発見したので、彼もわたしと同じような疑いをもって読んだ。
何か探そうとして机の抽斗ひきだしを開け、うちれてあッた年頃五十の上をゆく白髪たる老婦の写真にフト眼をめて、我にもなく熟々つらつらながめ入ッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
抽斗ひきだしでもなんでも大きなものばかり抜いてあるでしょう。私はかねがね先生から聞いていましたが、先生のご研究を盗もうという奴があるのです。
ニッケルの文鎮 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
碁を打つてめちやめちやになる信仰やくさめをしてけし飛んでしまふ哲学なぞも、牧師の抽斗ひきだしにはたんと有るものと見える。
十一日に貯金の全部百二十円を銀行から引出し、同店員で従兄いとこに当る若者あて遺書いしょしたため、己がデスクの抽斗ひきだしに入れた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
霊感を頭の抽斗ひきだしといふやうな所へしまつてゐるのに相違ない。目を開けて、出馬表を深川オペラ劇場主人に手渡した。
盗まれた手紙の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
それは私が今朝起きた時に、机の上や抽斗ひきだしの中を随分さがしたがとうとう見附からなかった「はぎ」の古い包である。
光の中に (新字新仮名) / 金史良(著)
変なことがあればあるものと、よくよく見ると、何のことだ、擦り硝子の窓は抽斗ひきだしのようになっていて硝子の外側に昼色電灯が点いているのだった。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかるに、或る時、十四日勘定の給料を受け取り、その晩家に帰りまして、翌十五日は休日ゆえ、家にいて、ふと道具箱の小刀の抽斗ひきだしけて見ました。
警部と巡査が一通り銀三の部屋の飾りつけを見終った頃、暮松は銀三のデスクの抽斗ひきだしから数枚の写真を取り出して
凍るアラベスク (新字新仮名) / 妹尾アキ夫(著)
その貝十郎の傍には、お勝手箪笥の『ままごと』が、抽斗ひきだしも戸棚もあけられた姿で、灯火に映えて置かれてあった。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
時雄は机の抽斗ひきだしを明けてみた。古い油の染みたリボンがその中に捨ててあった。時雄はそれを取ってにおいをいだ。しばらくして立上って襖を明けてみた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
それから机の抽斗ひきだしをあけてキチンと片づけて、押しこんだいたずら書きの紙屑や糸くずをちゃんとばして、紙は帳面に作り、糸は糸巻きに巻きました。
白椿 (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
私はその寝癖のついた断髪の後姿からヘンなものを感じて、部屋に這入はいると邪慳じゃけんに薬台の抽斗ひきだしを開け、歯刷子とチューブを掴み出してすぐあとに続いた。
ける。それから、先づ第一に枕の下、箪笥と鏡台の抽斗ひきだし、ハンドバッグの中、その他あちこちを引つかきまはす。最後に手紙の一束を取り出し、それを
クロニック・モノロゲ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
悠々と萌黄真田さなだの胴締を解き、黒繻子くろじゅすの風呂敷を開いて桐まさの薬箱、四段抽斗ひきだし、一番下から銀のさじに銀の文鎮、四角に切った紙を箱の上に八、九枚
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
これは中働なかばたらきといったようなものらしく、この硯箱すずりばこはここに置くことになっている、この抽斗ひきだしにはこういうものを入れることになっている、あれは其処そこ
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「もう済んだんです。綺麗になつたでせう。さつからそこいらの抽斗ひきだしの金具からすつかり磨いちやつたところ。」
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
たま/\抽斗ひきだしからしたあかかぬ半纏はんてんて、かみにはどんな姿なりにもくしれて、さうしてくやみをすますまでは彼等かれら平常いつもにないしほらしい容子ようすたもつのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)