あふぎ)” の例文
「飛んでもねえ、そんな爺々ぢゞむさいのぢやありませんよ、正直に申上げると、呼出し奴、宜い役ですぜ——斯う半開きのあふぎを口に當てゝ」
右に見えるのは出島でじまである。出島はあふぎの形をした、低い土地である。それが陸の方へ扇のを向けて、海の中へ突き出してゐる。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
月光げつくわうそのなめらかなる葉のおもに落ちて、葉はながら碧玉へきぎよくあふぎれるが、其上そのうへにまた黒き斑点はんてんありてちら/\おどれり。李樹すもゝの影のうつれるなり。
良夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
近衞家このゑけ京武士みやこぶしは、綺麗きれいあふぎで、のツぺりしたかほおほひつゝ、片手かたてなはまんで、三げんはなれたところから、鼻聲はなごゑした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
なぎさけし芭蕉ばせをざしにかざあふぎらずや。ほゝかひなあせばみたる、そでへる古襷ふるだすきは、枯野かれのくさせたれども、うらわかえんとす。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
此蹴綱に転機しかけあり、まつたつくりをはりてのち、穴にのぞんで玉蜀烟艸たうがらしたばこくきのるゐくまにくむ物をたき、しきりにあふぎけふりを穴に入るれば熊烟りにむせて大にいか
その間にも刀自達は、氣つけ藥のびんだの、手頃のあふぎだのを與へて、彼等の警告を用ゐないからこんなことになると、繰り返し繰り返し云ふのであつた。
時計とけいみぎかべで、ひだり袋戸棚ふくろとだなになつてゐた。その張交はりまぜ石摺いしずりだの、俳畫はいぐわだの、あふぎほねいたものなどがえた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
『さうね、いま、五六ぽんあふぎしい』とあいちやんはおもひました。『わたしみんなでなぞかけしてあそぶのが大好だいすき。——わたしにだつてれがけるとおもふわ』とつゞいて聲高こわだかひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
笹屋さゝやとはさゝのやうにしげいへ扇屋あふぎやとはあふぎのやうにすゑひろがるいへといふ意味いみからでせう。でも笹屋さゝやつてもそれを『さゝ』とおもふものもなく、扇屋あふぎやつても『あふぎ』とおもふものはありません。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
誘引さそひに來たれども夫は用向ようむきもあればゆかれぬとことわりしに其時貴殿おまへ扇子あふぎを落して來たからかしくれろと云ふ故てつあふぎかしつた其日鴻の巣の金兵衞が金五百兩かちしを見ておのれは先へ廻り金兵衞が歸りを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あふぎにてさしまねき、たのもしき
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
赤きあふぎをかざして踊るを
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
きん墨絵すみゑあふぎにて
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
あふぎかへせし舞姫と——
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
の持ちしあふぎ
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
握らせるのも、三月のひな人形に、あふぎ銚子てうしを持たせるのも同じことだ。下手人が男なら兎も角、女はそんな間拔けな間違ひはしない筈と思ふがどうだい、八
双坡楼そつはろうあふぎをいだしてふ、妓ももちたる扇をいだす。京水画をなし、余即興そくきやうしよす。これを見て岩居がんきよをはじめおの/\かべだいし、さら風雅ふうがきやうをもなしけり。
僕は近頃そのせものの中に決して贋にものとは思はれぬ一本のあふぎに遭遇した。成程なるほどこの扇に書いてある句は漱石そうせきと言ふ名はついてゐても、確かに夏目先生の書いたものではない。
続澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
其奴そいつ引捕ひつとらへてれようと、海陸軍かいりくぐん志願しぐわんで、クライブでん三角術さんかくじゆつなどをかうじて連中れんぢうが、鐵骨てつこつあふぎ短刀たんたうなどを持參ぢさん夜更よふけまで詰懸つめかける、近所きんじよ仕出屋しだしやから自辨じべん兵糧ひやうらう取寄とりよせる
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
よくこそ心掛給ひしといた賞美しやうびなし外々にて才覺致候はんと申ければ隱居は暫く考へ脊負葛籠せおひつゞら一ツ取出し中より猩々緋しやう/″\ひとらかは古渡こわたりのにしき金襴きんらんたん掛茶入かけちやいれ又は秋廣あきひろの短刀五本骨ほんぼねあふぎの三處拵ところごしらへの香箱かうばこ名香めいかう品々しな/″\其外金銀の小道具を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
双坡楼そつはろうあふぎをいだしてふ、妓ももちたる扇をいだす。京水画をなし、余即興そくきやうしよす。これを見て岩居がんきよをはじめおの/\かべだいし、さら風雅ふうがきやうをもなしけり。
づる、またひらく、あふぎかなめ思着おもひついた、ほねあればすぢあれば、うごかう、あしびやう……かぜあるごとものいはう…とつく木彫きぼりざうは、きてうごいて、ながらも頼母たのもしい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「御冗談で、あつしは、あふぎかなめのやうなもので、あつしが居るから、指圖が行屆く」
にんではだい乗溢のりこぼれる。の、あのいきほひでこぼれたには、魔夫人まふじんあふぎもつあふがれたごとく、漂々蕩々へう/\とう/\として、虚空こくうたゞよはねばなるまい。それにおの/\随分ずゐぶんある。くいふわたしにもある。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何處にもある半開のあふぎ型の、紙屑入かみくづいれと兼用の踏臺です。
宛如さながらあき掛稻かけいねに、干菜ほしな大根だいこんけつらね、眞赤まつか蕃椒たうがらしたばまじへた、飄逸へういつにしてさびのある友禪いうぜん一面いちめんずらりと張立はりたてたやうでもあるし、しきりに一小間々々ひとこま/\に、徳利とくりにお猪口ちよく、おさかなあふぎ
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いざ、金銀きんぎんあふぎつてふよとれば、圓髷まげをんな、なよやかにすらりときて、年下としした島田しまだびんのほつれを、透彫すかしぼりくしに、掻撫かいなでつ。心憎こゝろにくし。かねつたふらく、ふね深川ふかがは木場きばかへる。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たこみないかとのみふ。あふぎ地紙形ぢがみがたに、兩方りやうはうたもとをふくらましたるかたち大々だい/\小々せう/\いろ/\あり。いづれもきんぎんあをこんにて、まるほしかざりたり。關東くわんとうたこはなきにあらず、づけて升凧ますいかへり。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)