山羊やぎ)” の例文
つぎの朝久助君は、山羊やぎにえさをやるため、小屋の前へいって、ぬれた草を手でつかんだとき、きのうの川のできごとを思い出した。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
女は普通の日本の女性にょしょうのように絹の手袋を穿めていなかった。きちりと合う山羊やぎの革製ので、華奢きゃしゃな指をつつましやかに包んでいた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その青年記者のロイド眼鏡めがねの底に光る鋭い眼と、山羊やぎ髭を付けた可愛らしい口元は、顔の表情に一種不思議な矛盾を感じさせます。
女記者の役割 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
なんためわたしだの、そらここにいるこの不幸ふこう人達ひとたちばかりがあだか献祭けんさい山羊やぎごとくに、しゅうためにここにれられていねばならんのか。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
汝はドメニカに育てられ、「ジエスヰタ」派の學校に人となりて、その血中には山羊やぎ乳汁ちしる雜れり。されば汝は臆病なりといひき。
豌豆ゑんどうのやうな花の咲いた細かい草などもある。向うの土手のところに山羊やぎの一群が居り、少女ひとりが鵞鳥がてうの一群を遊ばせてゐたりする。
イーサル川 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
私の父は歓迎の意志表示でせうか、口汚く山羊やぎや豚を追ひ立てて、そのかはりうまやから自慢の仔馬こうまを引き出して先生に見せました。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
もぢやもぢやした髪の毛の中には、山羊やぎのやうなつのが二本、はえてゐる。牛商人は、思はず顔の色を変へて、持つてゐた笠を、地に落した。
煙草と悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
窓の外の木々の葉のささやきを聴きながら、かの女はしばら興醒きょうざめた悲しい気持でいた。すると何処かで、「メー」と山羊やぎが風をよろこぶように鳴いた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
山羊やぎこうしとの血を用いず、己が血をもてただ一たび至聖所に入りて、永遠の贖罪を終え給えり。……このゆえに彼は新しき契約の仲保なり。
二頭の暗黒なる山羊やぎのごとく無限の橋上において額をつき合わする二つの宗教の争い、それらももはや今日のように恐るるに及ばないだろう。
顔が人間と猿の間で、手足の先が山羊やぎのようで、小さな尻尾しっぽがあって、まっ黒な胴着をつけてるのが、悪魔あくまの姿として絵に書いてあったのです。
天下一の馬 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
時と荒廃とに任せていた彼の住居は崩れかけて来たので、飢えたる山羊やぎどもは彷徨さまよい出て、近所の牧場へ行ってしまった。
「己は鶏三羽と山羊やぎ一疋遣ったに己の児を捉えくさった、この上まだ何ぞ欲しいか破落戸ごろつきめ」とわめきおったと(バルフォール『印度事彙』三)。
わに駝鳥だちょう山羊やぎ鹿しか斑馬しまうま、象、獅子しし、その他どれ程の種類のあるかも知れないような毒蛇や毒虫の実際に棲息せいそくする地方のことを話し聞かせた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しゆの色の薔薇ばらの花、ひつじが、戀に惱んではたけてゐる姿、羊牧ひつじかひはゆきずりに匂を吸ふ、山羊やぎはおまへにさはつてゆく、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
あゝ萬の罪人にまさりて幸なく生れし民、語るもつらき處に止まる者等よ、汝等は世にて羊または山羊やぎなりしならば猶善かりしなるべし 一三—一五
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
白い山羊やぎの背に、二箇の酒瓶さかがめを乗せて、それをひいてきた旅の老人が、桑の下に立って、独りで何やら感嘆していた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幼いとき、小学校の「山羊やぎ」という綽名あだなのある校長さんから、面白いお伽噺とぎばなしをして貰ったが、その中で、最もよく覚えているのは、こんな噺であった。
人造物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
君は可愛かわいい甥でした。わしは君を、利巧な甥としてしんから愛して来ました。君だって、先王がおいでの頃は、この山羊やぎのおじさんに、なついていました。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
が、なおも辛抱強くその実験をつづけていると、髑髏を描いてある場所の斜め反対の隅っこに、最初は山羊やぎだろうと思われる絵が見えるようになってきた。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
「ええ、ありがとう、ですからマグノリアの木は寂静じゃくじょうです。あの花びらは天の山羊やぎちちよりしめやかです。あのかおりは覚者かくしゃたちのとうとを人におくります。」
マグノリアの木 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
山羊やぎの乳をしぼれば、他の者がふるいをその下に差し出していると云う、そんなはかない生活くらしなので、躯工合でも悪くなると、あれこれと考えるのだが、まあ
生活 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「アコン、旦那に言って山羊やぎというもんを飼って貰いなさらんか。山羊の乳は仰山ぎょうさんに滋養があるそうですど」
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
流れのふちで桑の葉などを食べていた山羊やぎも、私たちの姿を見ると人なつこそうに近よってきた。
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
うとうととしたふくれ顔の金髪を乱した娘が、神経質な素気そっけない山羊やぎのような小足でそばを通りかかると、クリストフは彼女をもう一、二時間も多く眠らせるためには
コンゴに住むイーキー民族は現今げんこんも「しまうま」の肉は食はぬ。むかしエヂプトに於ては、テベスでは羊を食はず、メンデスでは山羊やぎを食はず、オムポズでは鰐魚わにを嫌つた。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
湖畔の岩陰いわかげや、近くの森のもみの木の下や、あるいは、山羊やぎの皮をぶら下げたシャクの家の戸口の所などで、彼等はシャクを半円にとり囲んですわりながら、彼の話を楽しんだ。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「さうかなあ。ふらふらと出てみる気になつたんだ。山羊やぎ先生、大分、よぼよぼになつたね」
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
それはまあいいとして、この有尾人からは、山羊やぎくさいといわれる黒人のにおいの、おそらく数倍かと思われるようなたまらない体臭が、むんむん湿熱にむれて発散されてくる。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
羊や山羊やぎかに獅子しし昆虫こんちゅうのたぐいに仮体かたいして、山河に飛散していたもろもろの星が、すっかりめいめいの意味をもって、ちゃあんとそれぞれ天空の位置にはめ込まれていた。
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
私は、娘が一と息で数えるだけの、羊と牛と山羊やぎと馬と豚を、お祝いにやりましょう。
湖水の女 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
大先達某勧之などとしたため、朱印をベタ押しにしたのを着込んで、その上に白たすきをあや取り、白の手甲に、渋塗しぶぬりの素足をあらわにだした山羊やぎひげのおきななど、日本アルプスや
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
次にはからすを挙げ、三十九章に入りては山羊やぎ牝鹿めしか野驢馬のろばのうし(野牛すなわち野生の牛)、駝鳥だちょうたかわしを挙げておのおの特徴を述べ、神の与えし智慧ちえによる各動物の活動を記して
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
もしもこんなとき津留がいるとすれば、この妹娘は必ず山羊やぎのような声で「ええへへへへ」と笑う、わざとのどへひっかける妙な笑いかたで、それから姉の口まねを上手にやってみせる。
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
公園の柵の真中にいた山羊やぎが、見物人の合図に、何事かと物珍らしそうに柵の方に走って来る、ちょうどそれのように、一同の顔が彼に近づく。その顔はエロアのにおいをいでいる。
痩せた頬、くぼんだ眼、半白の山羊やぎひげをなびかせた老後の風采は少々仙骨を帯びた工合、といっていわゆる名人肌の奇行などは微塵も聞かず、平素もきちんとした羽織袴で技術に専心。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
その夜はそこに宿り翌日も非常に疲れて居るから一日休息してその翌朝すなわち九月二十六日、山羊やぎは一疋でも行くといいますからそこで荷物を背負わす山羊を一疋買い調えて出掛けました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
あの時は山羊やぎのごとくしかり山野泉流ただ自然の導くままに逍遙しょうようしたり。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
羊はちょっとしたことにもおどろく臆病おくびょうな動物ですが、中へ五、六頭の山羊やぎを入れておくと、羊はこの山羊をたよりに思って、夜などもなにかさわぎがおこると、みな山羊やぎのそばへより集まるのです。
そこへブロッケンの山から駆けて帰る、年の寄った山羊やぎおす
山羊やぎの乳と山椒のしめりまじりたるそよ風吹いて夏は来りぬ
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
歩めるは娘娘廟にやんにやんべうのうしろなる野に飼はれたる山羊やぎら小馬ら
山羊やぎふ者、展望の高き場より海のうへ
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
山羊やぎの毛皮の襟巻も飲んじまいましたよ。
山羊やぎが啼いて 一日一日 過ぎてゐた
優しき歌 Ⅰ・Ⅱ (新字旧仮名) / 立原道造(著)
ひげの似たるより山羊やぎと名づけて
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
羊を集め、山羊やぎを集め
夕づつの清光を歌ひて (旧字旧仮名) / サッフォ(著)
山羊やぎさん
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
山羊やぎの角
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)