小止こや)” の例文
障子を隔てて次の間には、何も知らずに令一が眠っている。外の、吹雪の音は、やはり小止こやみもなく、狂っているのが聞えたのである。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
雨が少し小止こやみになって、雷が激しくなってきますと、ぴかりとする稲妻いなづま蒼白あおじろい光りを受けて、濡れた金の日の丸が、なお一層輝いてきました。
雷神の珠 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
暴風雨は、ちょっと小止こやみになって、一瞬間の不気味な静寂——階上には、法外父娘の部屋の障子に、ぼうっとあんどんの灯が滲んで人のいそうもない気配。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
小止こやみになった雨足を縫って歩き出すと、ちょうどそこへ、蛇の目をさして通りかかったのは、同じお秀のところへ行く、お紋という二十二三の中年増でした。
一生懸命に駈出した、さあ荷物は渡した、東京へ着いたわ、雨も小止こやみかこいつは妙と、急いで我家へ。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜が明けても雨は小止こやみもなく降り続いた。松本までの車を雇って山を下りて来ると、島々の辺から雨が止み、汽車が甲州路に入ると雲が破れて日光が降りそそいだ。
雨の上高地 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
みぞれまじりの雨も、小止こやみになったと見えて、もう窓に音がしなくなった。女連れの客が立った後には、硝子の花瓶にさしたの花ばかりが、冴え返る食堂車の中にかすかな匂を漂わせている。
西郷隆盛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
子供たちが場内の整理や、着更きがえなどに小止こやみもなく動きまわっている間、テントばりの父兄席では、そこここに楽しい交歓が行われ、はしゃいだ話声や、賑やかな笑い声が雲のように湧きあがっていた。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
三人目は小三郎さんで——これは雨が小止こやみになつてから、格子の中へ入つたと思ふと、大きな聲を立てて、氣違ひのやうになつて出て來ました。お師匠さんが殺されてゐるのを