安値やす)” の例文
この先もう一苦労してもいい相手だから、ずいぶん安値やすいものにつくが……などと彼の頭はやはり、算盤そろばんとは縁が断ち切れなかった。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またほかの書生がこんな事に出会ったりなどして、如何いかにも気味がるかったから、安値やすくってよかったが、とうとう御免こうむったのであった。
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
あちら此方と安値やすそうな間を借りては其処から局に通って、午前出の時は午後を針仕事に、午後出の時は午前を針仕事に
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
魚屋の盤台の鱸は……実は余りお安値やすからず涼しく、ものにつけ涼しからぬはこれなく候。
逗子より (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ことに便所は座敷のわきの細い濡椽ぬれえん伝いに母家おもやと離れている様な具合、当人もすこぶる気に入ったのですぐ家主やぬしうちへ行って相談してみると、屋賃やちんも思ったより安値やすいから非常に喜んで
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
安値やすいリボンと息を吐き
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
私にもあまりい気持がしなかったが、何分なにぶん安値やすくもあるし、にぎやかでもあったので、ついつい其処そこに居たのであった。
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
安値やすいものだ。……私は、その言い値に買おうと思って、声を掛けようとしたが、すきがない。女が手を離すのと、笊を引手繰ひったくるのと一所で、古女房はすたすたと土間へ入ってく。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
場末の怪しげな安値やすいおでんや兼業の河豚屋などへ首をつッ込み、近海もののトラ河豚の水っぽいのを食べて、帰り途に、中風のなりかかりみたいに、唇を痙攣させて欣んでいる連中もある。
河豚 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何しろ滅法めっぽう安値やすい家で、立派な門構もんがまえに、庭も広し、座敷も七間ななまあって、それで家賃がわずかに月三円五十銭というのだから、当時まだ独身者ひとりものの自分には、願ったりかなったりだと喜んで
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
自分の胸だけで、もう決めていたような口吻くちぶりだった。清吉はむしろ思うつぼだった。百五十両が、この女の身代みのしろになるならばむしろ安値やすいものだという算盤そろばんが——無意識のうちに胸で働いていた。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はりのやうなきのこ洒落しやれつゝいたのであらうとおもつて、もう一度いちどぶるひすると同時どうじに、うやらきのこが、ひとつづゝ芥子けしほどのいて、ぺろりとしたして、店賃たなちん安値やすいのを嘲笑あざわらつてたやうで
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ホホホ。みんなお安値やすいものばかりだね。——豆さん、おまえは」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うち女中ぢよちうなさけで。……あへ女中ぢよちうなさけふ。——さい臺所だいどころから葡萄酒ぶだうしゆ二罎にびん持出もちだすとふにいたつては生命いのちがけである。けちにたくはへた正宗まさむね臺所だいどころみなながれた。葡萄酒ぶだうしゆ安値やすいのだが、厚意こゝろざし高價たかい。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
無論、安値やすくない駕賃かごちんについた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)