孔雀くじゃく)” の例文
三枝子は静枝が自分の前へ来るまで、孔雀くじゃくのように着飾っている絢爛けんらんな彼女の着物を観察した。それが三枝子には一つの驚異だった。
接吻を盗む女の話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
孔雀くじゃくのような夫人のこの盛粧はドコへ行っても目に着くので沼南の顔も自然に知られ、沼南夫人と解って益々ますます夫人の艶名が騒がれた。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
床には、彼の風雅癖を思わせて、明人みんびと仇英きゅうえいの、豊麗ほうれい孔雀くじゃくの、極彩色ごくさいしき大幅が掛けられ、わざと花を生けない花瓶は、そう代の磁だった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
突き当りに牡丹ぼたん孔雀くじゃくをかいた、塗縁ぬりぶちの杉戸がある。上草履を脱いで這入って見ると内外うちそとが障子で、内の障子から明りがさしている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
時には大きい体の割りに非常に素早しっこい孔雀くじゃくが、った一本しか無い細い小路に遊び出て、行人の足を止めさせることもある。
決闘場 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
仏像についで羅漢らかん像も、老僧も、天女てんじょも、鳳凰ほうおうも、孔雀くじゃくも、鶴も、雉子も、獅子も、麒麟も、人の画も、形のある物は皆大声に笑った。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そらにはしもの織物のような又白い孔雀くじゃくのはねのような雲がうすくかかってその下をとんび黄金きんいろに光ってゆるくをかいて飛びました。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そのぼかされたすそには、さくら草が一面に散り乱れていた。白地に孔雀くじゃくを浮織にした唐織の帯には、帯止めの大きい真珠が光っていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
僅かの間に櫛巻髪を束髪に直して、素晴らしい金紗の訪問着の孔雀くじゃくの裾模様を引ずりながら、丸々と縛られた維倉青年の前に突っ立った。
女坑主 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
校長秋山先生は、台所口の一枚の障子のきわに納まって、屏風びょうぶをたて、机をおき——机の上に孔雀くじゃくの羽根が一本突立っていた。
そうすると寂しく孔雀くじゃくの羽根をむしったように、自分の姿がみじめに見えるでしょう。けれど私たちの本体はそれだけにすぎないと思います。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
しかしソロモン王が外国から致した商品中に猴ありて、三年に一度タルシシュの船が金銀、象牙ぞうげ、猴、孔雀くじゃくもたらすと見ゆ。
ところで、極彩色の孔雀くじゃくがきらきらと尾羽おばまるくひろげた夏の暑熱しょねつと光線とは、この旅にある父と子とをすくなからず喜ばせた。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
方角や歩数等から考えると、私が、汚れた孔雀くじゃくのような恰好かっこうで散歩していた、先刻さっきの海岸通りの裏あたりに当るように思えた。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
日本アルプスには見ることが到底出来ない、随って欧洲アルプスなどで最も純粋の紫や、孔雀くじゃくの羽のような濃厚深秘な妖色ようしょくを示すことのある
日本山岳景の特色 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
まったく加代子さんの美しさ静かさ深さに比べると、あやかなどという女は、孔雀くじゃくの羽をつけた何んとかというアレですよ。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
しかしトチメンボーは近頃材料払底の為め、ことに依ると間に合い兼候かねそろも計りがたきにつき、其節は孔雀くじゃくしたでも御風味に入れ可申候もうすべくそろ。……」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
孔雀くじゃくの羽根の扇を持って、頸飾くびかざりだの腕環うでわだのをギラギラさせて、西洋人だのいろんな男に囲まれながら、盛んにはしゃいでいるんだそうです
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
短い革袴かわばかまに稽古着一枚、これがその昔、孔雀くじゃくのような振袖姿を、春風に吹かせて歩いた新九郎かと思えば涙ぐましくもなる。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
孔雀くじゃく刺繍ししゅうした絹の布を、彼女は両手に捧げていた。それは彼女が刺繍したもので、それを父に見せようとして、探してここまで来たらしい。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
鯛の頭に孔雀くじゃくの尻尾。動物園には象が居るよ。植物園は涼しいね。マルクスが何と云っても絵画は絵画で科学は科学です。
二科狂想行進曲 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
レエヌさんが、ほのお色の、放図ほうずもなくすそのひろがった翼裾ウイング・スカーフのソワレを着て、孔雀くじゃくが燃えあがったようになってはいって来た。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
弥吉は、せてはいるが、今小姓仲間の孔雀くじゃくといわれている大隅を、そう言われて急に思い出した。なぜか児太郎とくらべものにならない気がした。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
すると、そのとき、あたまうえ孔雀くじゃくのようなうつくしいはねのある天女てんにょが、ぐるぐるとをえがくごとくっていました。
天女とお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
ひどく、ぶ器量なくせに、パーマネントも物凄ものすごく、眼蓋まぶたを赤く塗ったりして、奇怪な厚化粧をしているから、孔雀くじゃく
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
これはその時うちならしの模様に、八葉はちよう蓮華れんげはさんで二羽の孔雀くじゃくつけてあったのを、その唐人たちが眺めながら、「捨身惜花思しゃしんしゃっかし」と云う一人の声の下から
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
唖然あぜんたる眼つきをしか期待できないようなれ違う男にたいしてさえ、そうである。クリストフはしばしばそういうくだらない孔雀くじゃくひなどもに出会った。
孟宗もうそうの根竹に梅花を彫った筆筒ふでづつの中に乱れさす長い孔雀くじゃくの尾は行燈あんどう火影ほかげ金光きんこう燦爛さんらんとして眼を射るばかり。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
第四「馬の間」の襖は応挙、第五「孔雀くじゃくの間」は半峰、第六「八景の間」は島原八景、第七「桜の間」は狩野かのう常信の筆、第八「かこいの間」には几董きとうの句がある。
障子をあけて、際立って美しい令嬢が、尾羽根を拡げた孔雀くじゃくのように、気品高く、しずしずと入って来た。
半之助祝言 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
塩竈から松島へむかう東京の人々は、鳳凰ほうおう丸と孔雀くじゃく丸とに乗せられた。われわれの一行は孔雀丸に乗った。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それに続いて、剣を抜いた君長ひとこのかみが、鏡を抱いた王妃おうひが、そうして、卑弥呼は、管玉くだだまをかけ連ねた瓊矛ぬぼこを持った卑狗ひこ大兄おおえと並んで、白い孔雀くじゃくのように進んで来た。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
宗太もおまきもいた。見ると、その部屋へやの古い床の間には青光りのする美しい孔雀くじゃくの羽なぞが飾ってある。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
けれどもな、鰊や数の子の一庫ひとくら二庫、あれだけの女に掛けては、吹矢で孔雀くじゃくだ。富籤とみくじだ。マニラの富が当らんとって、何国どこへも尻の持ってきようは無えのですもの。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
孔雀くじゃくのみごとな羽もさして興味をひかなかった。かれははいった時と同じようにして出て行った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
虎もひょうもごろりと横になって寝ている。孔雀くじゃくけんを競う宮女きゅうじょのように羽根をひろげて風の重みを受けておどおどしている。象は退屈そうに大きな鼻をぶらぶら振っている。
動物園の一夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
時どきに彼女があふれるばかりの笑いを帯びて、驚いた蛇か孔雀くじゃくのように顔を上げると、それらの宝石をつつんだ銀格子のような高貴な襞襟ひだえりが、それにつれて揺れるのでした。
ああいう塀の中に住んだのでは、孔雀くじゃくの羽で身を飾ろうとするからすわらうわけには行かない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
ああしたシラー式の美しい心をもった連中によくあるやつだからな——いよいよという土壇場まで孔雀くじゃくの羽毛で相手を飾ってさ、最後のどんづまりまでいい事ばかり頼みにして
星形をした大きな池には、赤はすや青蓮が咲きほこり、熱帯魚がルビイ色の魚鱗ぎょりんをきらめかせてゐる。樹間には極楽鳥のつばさがひるがへり、芝生には白孔雀くじゃくが、尻尾しっぽをひろげて歩いてゐる。
わが心の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
お染は少しツンとして、自分の部屋へ引取りました、銭形平次の執拗な疑いに対して、矯慎きょうしんを発した姿です。それは怒った孔雀くじゃくのような、不思議な気高さと華やかさを持ったものです。
室内には金泥の地に龍、孔雀くじゃく、花模様の描いてある箪笥台たんすだいの上に立派な新教派の開祖がジェ・ゾンカーワと釈迦牟尼仏しゃかむにぶつとが安置してある。これは新教派の普通の仏壇の本尊であるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
これらの二つをならべてそのちょうつがいをからだとみれば、それはまた二羽の孔雀くじゃくの競いかに尾羽根をひろげたさまである。美しいかさねをきた子安貝、なないろのさざ波のよるとこぶし。
小品四つ (新字新仮名) / 中勘助(著)
孔雀くじゃく」「蟋蟀」「白鳥」「かわせみ」「小紋鳥」の五つである。ルナールは性来の音楽嫌いを標榜ひょうぼうしているが、皮肉にもその作品が世界中の美しいのどによってあまねく歌われているのである。
博物誌あとがき (新字新仮名) / 岸田国士(著)
道糸は馬尾ばす糸を幾本にも撚ったもの、竿三、四尺短くつける。鈎素はりすは上等テグスの三、四厘を二尺くらい。鈎は、鶏の襟毛、孔雀くじゃくの羽毛、山鳥の羽などで昆虫の羽虫に似せて巻くのである。
雪代山女魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
房廓は昼夜数百の電燈を点じて、清気機は常に新鮮なる空気を供給す。房中の粧飾、衣服の驕奢きょうしゃ、楼に依り、房に依り、人に依りて各その好尚を異にす。濃艶なる者は金銀珠玉、鳳凰ほうおう舞ひ孔雀くじゃく鳴く。
四百年後の東京 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「おお、孔雀くじゃくだ! 孔雀だ! 孔雀が飛んでいる!」
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
唐机とうづくえの上に孔雀くじゃくの羽を押立る。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
孔雀くじゃくLe Paon
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
珍な事には、その徒皆両手で盃を持つ事日本人と異ならず、また魔王の名を言わず孔雀くじゃく王といい、孔雀をその象徴とす。