墓石ぼせき)” の例文
道子みちこ一晩ひとばんかせげば最低さいていせん五六百円ぴやくゑんになる身体からだ墓石ぼせき代金だいきんくらいさらおどろくところではない。ふゆ外套ぐわいたうふよりもわけはないはなしだとおもつた。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
彼の脚は、墓石ぼせきみたいに、動こうともしなかったが、ふと、その人の顔を見ると、柘植嘉兵衛であったので、はっとゆるむと
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
墓石ぼせきは戒名も読めかねる程苔蒸して、黙然として何も語らぬけれど、今きたってまのあたりに之に対すれば、何となく生きた人とかおを合せたような感がある。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
もつとも昔は樹木じゆもくも茂り、一口に墓地と云ふよりも卵塔場らんたふばと云ふ気のしたものだつた。が、今は墓石ぼせき勿論もちろん、墓をめぐつた鉄柵てつさくにも凄まじい火のあとは残つてゐる。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
佐々木は建久のむかしこの磯部に城を構えて、今も停車場の南に城山の古蹟を残している位であるから、苔のあお墓石ぼせきは五輪塔のような形式でほとんど完全に保存されている。
磯部の若葉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
仏法僧鳥ぶつぽふそうを聞かうともせず、宝物はうもつも見ず、大門の砂のところからのびあがつて、奥深い幾重の山のはるか向うに淡路島あはぢしまよこたふのも見ようともせず、あの大名の墓石ぼせきのごたごたした処を通り
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
つめたい 春の 墓石ぼせきといふ墓石ぼせき
独楽 (新字旧仮名) / 高祖保(著)