塵芥じんかい)” の例文
海はその向うに、白や淡緑色の瀟洒しょうしゃな外国汽船や、無数の平べたいはしけや港の塵芥じんかいやを浮かべながら、濃い藍色あいいろはだをゆっくりと上下していた。
一人ぼっちのプレゼント (新字新仮名) / 山川方夫(著)
河面一面にせり合い、押し合い氷塊は、一度に放りこまれた塵芥じんかいのように、うようよと流れて行った。ある日、それが、ぴたりと動かなくなった。
国境 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
どの手の持主がどの人だかとても分からない。大量塵芥じんかい製造工場のようなものである。また万引奨励機関でもある。
猫の穴掘り (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そしてこの浅ましい行為によってお前は本当の人間の生活を阻害し、生命のない生活の残りかすを、いやが上に人生の路上に塵芥じんかいとして積み上げるのだ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
桟橋の下にはたくさん塵芥じんかいいていた。その藻や塵芥の下をくぐってかげのような魚がヒラヒラ動いている。帰って来た船がはとのように胸をふくらませた。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
ペール・ラシューズ墓地とトローヌ市門との間の大通りのみぞの中に、ごく寂しい所で遊んでいた子供らが、木片や塵芥じんかいのうずたかい下に一つの袋を見いだした。
せせこましい地上の出来事など、この太陽と、海原と、青空との壮大な交響楽の前には、塵芥じんかいにも等しい。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
周囲四丈八尺ある門前の巨杉おおすぎの下には、お祭りの名残りの塵芥じんかいや落葉がうずたかく掻き集められて、誰が火をつけたか、火焔ほのおは揚らずに、浅黄色した煙のみが濛々もうもうとして
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あしたに金光をちりばめし満目まんもくの雪、ゆうべには濁水じょくすいして河海かかいに落滅す。今宵こんしょう銀燭をつらねし栄耀えいようの花、暁には塵芥じんかいとなつて泥土にす。三界は波上のもん、一生は空裡くうりの虹とかや。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その途中に家並がとぎれて空地つづきになったところがある、右も左も荒れた草原で、いかにも場末らしくやたらに紙屑かみくずだの空罐あきかんだのの塵芥じんかいが汚ならしく捨ててあるんだ。
陽気な客 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
水には一片の塵芥じんかいも浮ばず、断崖には一茎ひとくきの雑草すら生立おいたってはいないで、岩はまるで煉羊羹ねりようかんを切った様に滑かな闇色に打続き、その暗さが水に映じて、水も又うるしの様に黒いのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかも蒼虬の句中たまたまこの悪句あるに非ず、彼が全集はことごとくこの種の塵芥じんかいを以て埋めらるる者なり。しかしてこの派を称して芭蕉の正風しょうふうなりといふに至りては真に芭蕉の罪人なり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そしてそのためにはまず、積もり重なってる灰と塵芥じんかいとを清掃することだった。
めに一人も中毒ちうどくひしものなし、此他めしの如き如何なる下等米といへども如何なる塵芥じんかいこんずると雖も、其味のなる山海の珍味ちんみも及ばざるなり、余の小食家もつねに一回凡そ四合をしよくしたり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
これらの疲労した川筋を通して一年に七千四百万貫の塵芥じんかいを吹き、六十万ごく糞尿ふんにょうて、さらに八億立方しゃくにも余る汚水を吐き出す此の巨大な怪獣の皮腺ひせんかられる垢脂こうしに過ぎないのだから。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
一方は、どろ立った急湍きゅうたんであって、……末期イタリー趣味と新マイエルベール式との匂いがあり、感情の醜悪な塵芥じんかいがそのあわの下に流れている……。嫌悪けんおすべき傑作だ。イゾルデの生み出したサロメだ。
清盛は平家の塵芥じんかい、武家の糟糠そうこうなり。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
プロレタリアートは、たゞブルジョアジーを武装解除した後にのみ、その世界史的見地に叛くことなく、あらゆる武器を塵芥じんかいの山に投げ棄てることが出来る。
ぼんやり立って流れを見ていると、目の下を塵芥じんかいに混って鳩の死んだのがまるで雲をちぎったように流れていっていた。旅空で鳩の流れて行くのを見ている私。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
いつのまにか米友は、柳原の土手の通りを通り過ぎて、加賀ッ原のところまで来て見ると、加賀ッ原の真中に足軽のような者が、塵芥じんかいを集めて焼き捨てていました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それは感激なくして書かれた詩のようだ。又着る人もなくたれた錦繍きんしゅうのようだ。美しくとも、価高くあがなわれても、有りながら有る甲斐かいのない塵芥じんかいに過ぎない。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あたかも風の吹き溜まりに塵芥じんかいが集まるような、いつ、そうなったともわからないほど自然な成り立ちであり、経済的にも感情的にも、自分たちの「街」以外の人間とは
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
(二)石切場内には大小無数の石片石塊と、石工いしくの作業の跡、及、街道より散入したるわら、紙、草鞋わらじ、蹄鉄片、その他凡百の塵芥じんかい類似の物のほか、特に注意すべき遺物を認めず。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
塵芥じんかい貯蔵所まで設けられていた。そして今から三十年前には、新しい建物のために、その一郭はほとんど塗りつぶされてしまった。今日ではもうまったくその姿がなくなってしまっている。
かくてその結果は生命と関係のない物質的な塵芥じんかいとなって、生活の路上に醜く堆積たいせきする。その堆積の余弊は何んであろう。それは誰でも察し得る如く人間そのものの死ではないか。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
小石川堀へ通ずる大溝へのけが悪いから、——そのときも、僅かなあいだにどぶ板が浮きかかっており、長屋の女房たちがどしゃ降りの中で、いさましく排け口の塵芥じんかいをさらっていた。
破片となり塵芥じんかいとなり渾沌こんとんたるものとなってしまった。