塵芥ごみ)” の例文
あるいはこの想像が当っているかも知れない。妙子さんを運んだ塵芥ごみ車はすぐ近所の神社の境内に、空っぽにして捨ててあったのだ。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あたりが俄に物気立ものけだつかと見る間もなく、吹落る疾風に葭簀よしずや何かの倒れる音がして、紙屑と塵芥ごみとが物ののように道の上を走って行く。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ちっとも動揺したところはなく、まして今の先、飛騨の郡代の首を水をくように打ち落して、それを塵芥ごみを捨てるように
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あかるいひかり滿ちた田圃たんぼ惑亂わくらん溷濁こんだくしたこゝろいだいてさびしく歩數あゆみんでかれは、玻璃器はりきみづかざして發見はつけんした一てん塵芥ごみであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
時折り、竹鋏を持ち出した爺さんに塵芥ごみ箱の中をかきまわされて大根の尻っぽだの出し昆布の出殻をつまみあげられては
神楽坂 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
そこには家族づれの牝豚も一匹いたが、その牝豚は塵芥ごみの山をほじくり返しながら、ついでに雛っこを一羽食ってしまった。
そして、振り向かうともせずに、何か知らむつと塵芥ごみくさい臭ひのする、右左に煉瓦塀のすれすれになるやうな道をせかせかと歩き續けて行くのだつた。
ハルピンの一夜 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
溝には塵芥ごみうづたかく、たまたま清潔きよき家ぞと見るも、生々しき獣皮の、内外には曝されたる、さりとては訝しさを、車夫に糺せば、個は穢多村なりといふ。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
残りの材木や石や塵芥ごみなど、すべて城外へ運び出させてしまい、きれいに掃き清めてまである行き届いた手際に
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俺は饑饉魔だ。若い女どもが塵芥ごみをふりかけ、むしろの上から踏みつけたって、俺の姿を見あらわすことはできない。ところが、君など、人からも、犬からも姿を
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
それに、この塵芥ごみ箱の中そのまゝの留置場は、彼のその絶望的な氣持を二乘にも、三乘にも暗くした。
一九二八年三月十五日 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)
その角面堡かくめんほうのうちには一種の塵芥ごみの山があり、その堆積のうちには一種のオリンポスの殿堂があった。
十一月に入つた日、裏口へ塵芥ごみを捨てに行くと、離れから起き出たばかりの豊太郎が顔を洗つてゐた。
一の酉 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
何しろ米の出來るくににゐる田舎者ゐなかものが、こめの出來ない東京へ來て美味うまめしあり付かうとするんだからたまらん………だから東京には塵芥ごみが多い。要するに東京は人間の掃溜はきだめよ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
少しでも塵芥ごみが残っていると、掃直はきなおしを命ぜられるから、丁寧に奇麗にかなきゃならん。是が中々の大役の上に、時々其処らの草むしり迄やらされて萎靡がっかりする事もある。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
それから出入りの屑屋にきいてみると、博士邸の塵芥ごみ箱の中から、いつも玩具おもちゃのこわれたのが出てくるというんだ。子供のないうちに、こわれた玩具があるのは妙じゃないの。
少年探偵呉田博士と与一 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
塵芥ごみ捨て場だの、汚ならしい水溜みずたまりだの、家を取壊した跡だの、また気紛れに作りかけたまま放りだしたような畑だのになっていて、ぜんたいがじめじめと暗い、陰気くさい
嘘アつかねえ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「ええ、気味の悪い……。これからせっせと塵芥ごみを掃きこんで、埋めてやりましょう。」
古井戸 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
塵芥ごみうまった溝へ、引傾いて落込んだ——これを境にして軒隣りは、中にも見すぼらしい破屋あばらやで、すすのふさふさと下った真黒まっくろ潜戸くぐりどの上の壁に、何の禁厭まじないやら、上に春野山、と書いて
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おはぐろ色したどぶ汚水おすいと、其外あらゆる塵芥ごみを残して、先住は出て往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
このドノゴオ・トンカは、金を採るかわりに塵芥ごみを取る部落となった。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
なにをするのかと与七は上からのぞいてみると、半七はうず高い塵芥ごみのあいだを踏み分けて、大きいごろた石のかげから重ね草履の片足を拾い出した。かれは湿しめった鼻緒をつまみながら与七にみせた。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
薄暮の塵芥ごみ臭い裏庭へ開け放たれた窓越しに覗いてみた。
薄暮の貌 (新字旧仮名) / 飯田蛇笏(著)
塵芥ごみ捨場となっている穢い窪地。青いどろどろの水溜り。
異常な荘厳さが、巨人の屑籠くずかごをくつがえしたようなその破片の堆積から発していた。それは塵芥ごみの山であり、またシナイの山(訳者注 モーゼがエホバより戒律を受けし所)
楽屋口へ這入ると「今日終演後ヴァラエテー第二景第三景練習にかかります。」だの、何だのと、さまざまな掲示の貼出はりだしてある板壁に沿い、すぐに塵芥ごみだらけなあぶなッかしい階段が突立っている。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
でなければ、あんなに易々やすやすとベッドの中へ隠したり、塵芥ごみ箱の中へ隠したり出来ない筈だからね。……犯人は、今朝まだ薄暗い内に、これを塵芥車にのせて、そこの神社の森の中へ引っぱって来た。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それは門番の手中にある掃きだめからくる関係であって、そこにいい物が多いか少ないかはまったく塵芥ごみを掃き寄せる者の手加減による。ほうきの使い方にも親切さがあるものである。
楽屋口へ這入ると「今日終演後ヴァラヱテー第二景第三景練習にかゝります。」だの、何だのと、さま/″\な掲示の貼出してある板壁に沿ひ、すぐに塵芥ごみだらけな危ツかしい階段が突立つてゐる。
勲章 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「オオ、そういえば、まだありましたよ。ハハハハハハハ、掃除人夫です。塵芥ごみ車を引っぱって、塵芥箱の掃除に来ましたよ。ハハハハハハハ、掃除人夫のことまで申上げなければならないのですか」
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
舗石しきいしはいつもじめじめしていて、両側には、あなぐらのような商店、鉄のがはまってる大きな標石、ひどい塵芥ごみの山、何百年とたったような古い大きな鉄格子てつごうしのついてる大門、などがあった。
夜の街路を通りゆく泥濘でいねいの箱車、塵芥ごみ捨て場のきたないたる鋪石しきいしに隠されてる地下の臭い汚泥おでいの流れ、それらは何であるか? 花咲く牧場であり、緑の草であり、百里香や麝香草じゃこうそう鼠尾草たむらそうであり