塋域えいいき)” の例文
明治三年九月に香以は病に臥して、十日に瞑目めいもくした。年四十九。法諡ほうしは梅余香以居士。願行寺なる父祖の塋域えいいきに葬られた。遺稿の中に。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
虚談ではないらしい。日本でも時〻飛んでもないことをする者があって、先年西の方の某国で或る貴い塋域えいいきを犯した事件というのが伝えられた。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
中央部分よりやや東寄りに、エフィニゲウス家の宏大な塋域えいいきがあり、先程より詳しく申し上げました中尉の墓所は、この塋域中に設けられました。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
これ去年癸亥きがい七月十二日わが狎友こうゆう唖々子ああし井上精一君が埋骨のところなり。門に入るに離々たる古松の下に寺の男の落葉掃きゐたれば、井上氏の塋域えいいきを問ふ。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その塋域えいいきの清浄さに至っては、埃及人や希臘人なぞは到底足許にも及び得なかったのであります。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
大沼竹渓の墳墓は芝区三田台裏町みただいうらまちなる法華ほっけ宗妙荘山薬王寺の塋域えいいきにある。今茲ことし甲子の歳八月のある日、わたくしは魚籃坂ぎょらんざかを登り、電車の伊皿子いさらご停留場から左へ折れる静な裏通に薬王寺をたずねた。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ただ一つどうしても私の胸に合点の行かなかったのは、こないだあの老爺が現にあれほどせっせと掃除をしていたにもかかわらず、今見れば塋域えいいきは荒れ放題に荒れていることであった。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
いかに自分の祖先や家族たちの墳墓に敬虔けいけんなる感情を捧げ、日夜限りなき思慕を通わせているかを知ったからなのであったが、ともかく兵員一人としてこの塋域えいいきを乱すものとてもなく
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)