おし)” の例文
旧字:
と朝から晩まで食ごのみくい草臥くたびれれば、緞子どんすの夜具に大の字なりの高枕、ふて寝の天井のおしに打たれて、つぶれて死なぬが不思議なり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「もしどうしても返さなかったら」の一念が起ろうとする時、自分はむねおしつけられるような気がするのでその一念を打消し打消し歩いた。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
宅では御米が、宗助に着せる春の羽織をようやく縫い上げて、おしの代りに坐蒲団ざぶとんの下へ入れて、自分でその上へ坐っているところであった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それを箱へ並べておしをして二、三時間置いたのちに三分位の幅に切って生姜を添えて食べます。切る時庖丁ほうちょうへ酢をつけると御飯がつきません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
抱え娼妓しょうぎに斯う我儘をされるようでははたへ示しが付かぬ、何うにでもおしつけて花里を身請させねばならぬと申す気が一杯でげすから堪りません。
実母がそれを生意気だといってののしるのはまだしも、実父にまで、時々それをおしつけようとする口吻こうふんを洩されるのは、えられないほど情なかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
岩倉よりも胆力があっておしが強い方であった、しかし気質と議論が違うからとうてい両立はできない、岩倉をやっつけるか、やっつけられるか、どちらかであろう
石で床をきつめたその不気味な広いへやは、息窒いきづまるような沈黙でおしつけられていた。屍体のそばには、今までそれを包んでいたらしい、血痕の附着した敷布があった。
青蠅 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
これと同時に、敵は全力を振いて、し始めたれば、もとより覚悟のこととて、左右三指ずつにて、おしを加えながら繰り出す、その引力の強き、指さきの皮剥けんかと思うばかりなり。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
岩壁がんへきすそ又は大樹たいじゆなどに蔵蟄あなごもりたるをとるにはおしといふじゆつもちふ、天井釣てんじやうづりともいふ。
旨くおしを利かせて下さって難有うございます。
心をおししづめて問ひ返す。
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
その場合に、おしに打たれ、火に包まれたものと進退をともにするのは、助けるのではない、自殺をするのだ、と思いました。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先刻さつきまであをかつたそらも、何時いつとはなし一めん薄曇うすぐもつて、其処そこらがきふ息苦いきぐるしく、頭脳あたまは一さうおしつけられるやうになる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
お登和嬢「あれは塩一合へ水一合を加えて鍋で煮てよく冷ましたものへ山盛やまもり一升の一口茄子を漬けて軽いおしを ...
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「ちょっと着てみてちょうだい。まだおしが好くいていないかも知れないけども」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
難有ありがとう御座います。それで僕も安心しました。イヤまことに失礼しました匆卒いきなり貴様をとがめまして……」と彼は人をおしつけようとする最初の気勢とはうって変り、如何いかにも力なげにわびたのを見て
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
おしもお利きなさろうけれど、この大旦那でさえ、旅の身ではねえとかこごとをおっしゃる——まして、女興行師風情のわたしで、どうなるものか、それを考え出すと、腐ってしまわざるを得ない。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と手伝って、上包の結目むすびめを解くと、ずしりとおしにある刀を取ったが、そのまま、するりと抜きかける。——にじのごとく、葉を漏る日の光に輝くや否や
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時々胸からせぐりあげて来る涙を、強いておしつけようとしたが、どん底から衝動こみあげて来るような悲痛なおもいが、とめどもなく波だって来て為方がなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その外に梅の糸といって上品なお菓子がございますがそれは豊後梅ぶんごうめの青いのを大根や里芋のせんのように極くこまかい繊にって塩漬にしておしを置いて食べる時水で塩出しをして砂糖を
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
昔は孔子こうしがたった一人だったから、孔子も幅をかしたのだが、今は孔子が幾人もいる。ことによると天下がことごとく孔子かも知れない。だからおれは孔子だよと威張ってもおしが利かない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それからうちの漬物はさっぱり気が無いの、土用ごしの沢庵、至って塩の辛きやつで黙らそうとはおしが強い。早速当座漬をこせえて醤油おしたじ亀甲万きっこうまんに改良することさ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まったくだね、股引ももひきの裾をぐい、と端折はしょった処は豪勢だが、下腹がこけて、どんつくのおしに打たれて、猫背にへたへたと滅入込めいりこんで、へそからおとがいが生えたようです。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
例の訛った下卑た語調ものいいおしは利かないがおどかすと、両切の和煙草を蝋巻ろうまきの口に挟んで、チュッと吸って
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
コオトの背中を引抱ひっかかえて、身体からだおしにグサと刺した。それでも気が上ずったか、頭巾の端を切って、咽喉をかすって、剃刀のさきは、紫の半襟の裏に留まったのである。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
南無三宝なむさんぼう、此の柱へ血が垂れるのが序開じょびらきかと、その十字の里程標の白骨はっこつのやうなのを見て居るうちに、よっかゝつて居た停車場ステエションちた柱が、風もないに、身体からだおしで動くから
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
なれども、僧都が身は、こうした墨染の暗夜やみこそけれ、なまじ緋の法衣ころもなどまとおうなら、ずぶぬれ提灯ちょうちんじゃ、戸惑とまどいをしたえいうおじゃなどと申そう。おしも石も利く事ではない。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「……外廻りをするにして、要心に事を欠いた。木魚をおしに置くとはあんたるこんだ。」
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ええ、まだまだそれが三晩四晩と続きましたね、段々気味が悪くなって来るせいですか、さあ、おいでなすったと思うと天窓あたまから慄然ぞっとして、おしを置かれるような塩梅あんばいで動くこともなりません。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おしにのせた石の数々はわずかに水を出たかわらであった。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お前さんのおしぐらい掛ります。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)