唖者おし)” の例文
コクトオは氣がちがひさうになつて日がな一日オピアムばかりやつてるさうだし、ヴアレリイは十年間、唖者おしになつた。
ダス・ゲマイネ (旧字旧仮名) / 太宰治(著)
唖者おし娘のいちが、ときどき夜なかになにか持って出てゆく、それがべ物らしいので、たぶん権八のところへ届けるのだろう、ということであった。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この人がいわゆる古教派の仏法を修めて、遂に色気狂いになって地方へ漂流して行った。その時分にその方が唖者おしの娘と一緒になって出来た子である。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
彼はひどいつんぼなので、早合点はやがてんの人は彼を唖者おしだと思い込み、それより落付いた人も彼を薄鈍物うすのろだといった。
自分はといえば唖者おしであった。周囲といえば他人ばかり、泣く日の方が多かった。自然兄弟を恋い慕った。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すぐに吐きそうになって来るんですもの……仕方がないから丸で唖者おしみたようになって、眼ばかりパチパチさせていたら、警察の人達もとうとう諦らめてしまって、来なくなったようよ。
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
だがブラウンは首をふるばかりで唖者おしのように黙っていた。夕闇を通して山櫨さんざしの匂いと果樹園の匂いとが二人の鼻に迫った。で天気が風ばんで来た事をわかった。
「——藁屋わらやかんさんとこで面倒みてやってるらしいんだけど、唖者おしみたいにものを云わないし、お乳をやることもお襁褓むつを替えることも知らないらしいんですってよ」
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
第二の法王もつまらない身分、母親は唖者おしで父親は一体誰だか訳が分らぬ。ある隠者がその唖者おしと一緒になったとかあるいは坊さんが一緒になったとかいろいろの説がある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「うん、そうだ、いいことがある。唖者おしではあるが、妹のお霜は、富士甚内を見知っている筈だ。妹を江戸へ連れて来て、一緒に市中を廻ったら、よい手引きになろうもしれぬ」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
けれども人は、ひとたびこの小説を企てたその日から、みるみる痩せおとろへ、はては發狂するか自殺するか、もしくは唖者おしになつてしまふのだ。君、ラデイゲは自殺したんだつてね。
ダス・ゲマイネ (旧字旧仮名) / 太宰治(著)
まだ唖者おしかな、石仏いしぼとけかな、無言の行者でござんすかな! では止むを得ぬ、俺の口から、今夜の企て話してやろう! 実はな、お前の天文の才、どのくらいあるかためして見よう
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
隼人は矢を射かけられたことを思い、頭上から岩を落されたことや、かけはしでの出来事を思い、また、死んだ唖者おし娘いちのことを思った。だが、怒りや、憎悪感は起こらなかった。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
けれども人は、ひとたびこの小説を企てたその日から、みるみる痩せおとろえ、はては発狂するか自殺するか、もしくは唖者おしになってしまうのだ。君、ラディゲは自殺したんだってね。
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
「ぶろうという者の娘で、名はいち、年は二十になります、生れつき知恵のおそいうえに唖者おしですが、相手が誰かということはわかっていて、どうしてもそれを告げようとしないのです」
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「どうやら唖者おしになったらしい」またもや太郎丸憎々しく、「学者の唖者おしというものは、ふだんあんまり喋舌しゃべりすぎるためか、恐ろしく不格好ぶかっこうなものだなあ。学者学者、何んとかお云い!」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と云うのはそうやって働いている、大勢の人間の一人一人が、片耳であったり片足であったり、てんぼうであったり盲目めくらであったり、唖者おしであったり聾者つんぼであったり、満足な人間はないからであった。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「今度は唖者おしになったのね」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)