周圍あたり)” の例文
新字:周囲
『ア、だのでヤなかつたけな。』と言つて、ムクリと身起した。それでもまだ得心がいかぬといつた樣に周圍あたりを見𢌞してゐたが
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
卯平うへい清潔好きれいずきなのでむつゝりとしながらひとりときには草箒くさばうき土間どまのきしたいてはとりあしつめみだした庭葢にはぶた周圍あたりをもきつけていた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
『チヨツ莫迦ばかにしてるよ。松公はもと/\此方こつちの弟子ぢやないか。其をお前が引張込んで、散々さんざツぱら巫山戯ふざけ眞似まねをして置いて……』とだ何か毒づかうとしたが、急に周圍あたりに氣がつくと
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
周圍あたりには誰も居ません。親分に遠慮して皆な外へ出て了つたのでせう。亥太郎の執念深さうな青い眼だけが、お珊の美色にからみ付くやうに、その顏から、頸筋くびすぢから、縛られた胸を見詰めて居ります。
「さうだとも、ぜねでもなんでもんなけりや、よこせつちばえゝんだ、ぜねねえなんちへばこめでもむぎでも奪取ふんだくつてやれ」ぢいさんは周圍あたりつばばした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼の白襯衣ホワイト・シャツの汚れ目も、また周圍あたり構はぬ高聲で話しかける地方人の癖をも、私は決して不快に思はなかつた。二人は思出す儘に四、五人の舊友に就いて語つた。
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ちながらはかますそんで蹌踉よろけてはおどろいた容子ようすをして周圍あたりるのもあつた。ういふ作法さはふをも見物けんぶつすべては熱心ねつしんらしい態度たいど拜殿はいでんせまつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
『大きくなつたどもせえ。』と言つた忠太の聲が大きかつたので、周圍あたりの人は皆此方を見る。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
下宿料だけでも二月分で二十二圓! 少くとも五圓は出すだらうと思つたのに、と聞えぬ樣にブツ/\云つて、チヨッと舌打したが、氣が附いた樣に急がしく周圍あたりを見𢌞した。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
周圍あたりを見ると、校長も古山も何時の間にか腰を掛けて居る。マダム馬鈴薯はまだ不動の姿勢をとつてゐる。女教師ももとの通り。そして四人の目は皆、何物をか期待する樣に自分に注がれて居る。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)