これは何も黄表紙きべうしだの洒落本しやれぼんだのの作者ばかりではない。僕は曲亭馬琴きよくていばきんさへも彼の勧善懲悪くわんぜんちやうあく主義を信じてゐなかつたと思つてゐる。馬琴は或は信じようと努力してはゐたかも知れない。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)