八重葎やえむぐら)” の例文
しかし『八重葎やえむぐら』という俳書がこれを秋の部に入れたところを見れば、花の咲かなくなった蓮で、秋の句になるのであろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
その枝や葉や花がそれからそれへとおおい重なって、歌によむ「八重葎やえむぐらしげれる宿」といいそうな姿である。
薬前薬後 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そうしてその碑石が八重葎やえむぐらに埋もれた頃に、時分はよしと次の津浪がそろそろ準備されるであろう。
津浪と人間 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
八重葎やえむぐらの茂るに任せて、池も、山も、燈籠とうろうも、植木も、荒野原の中にたたずんでいるもののようです。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
雨戸の開けてある、広土間ひろどまの処で、円髷まるまげが古い柱のつやに映った。外は八重葎やえむぐらで、ずッと崖です。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
八重葎やえむぐらか」と半三郎はけだるそうに呟いた、「——葎の門というところだな」
あだこ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私はそれからその廃寺の八重葎やえむぐらの茂った境内にはいって往って、みるかげもなく荒れ果てた小さな西金堂さいこんどう(これも天平の遺構だそうだ……)の中を、はずれかかった櫺子れんじごしにのぞいて
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その枝や葉や花がそれからそれへとおおい重なって、歌によむ「八重葎やえむぐらしげれる宿」と云いそうな姿である。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)