丹頂たんちょう)” の例文
一双いっそう屏風びょうぶの絵は、むら消えの雪の小松に丹頂たんちょうの鶴、雛鶴ひなづる。一つは曲水きょくすい群青ぐんじょうに桃のさかずき絵雪洞えぼんぼり、桃のようなともす。……ちょっと風情ふぜい舞扇まいおおぎ
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あいつは、丹頂たんちょうのおくめといって、名うてな女賊ですぜ、どうです、どこかの茶屋のかみさんという風体ふうてい、まさか、女の盗人ぬすっととは見えなかったでしょう」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丹頂たんちょうつる、たえず鼻を巻く大きな象、遠い国から来たカンガルウ、駱駝らくだだの驢馬ろばだの鹿だの羊だのがべつだん珍らしくもなく歩いて行くかれの眼にうつった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
もっともあの女は七人花嫁をさらった丹頂たんちょうのおつるの妹だということだ。それくらいの事はするだろうよ。
草庵の前には童子が丹頂たんちょうの鶴を世話していた。人びとは老人の前へ往って礼拝をした。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
二羽の丹頂たんちょうの棲んでいる鉄柵でこしらえた、円形まるがたの檻があり、檻の周囲は、ローマの円形劇場か、両国の国技館の観覧席のように爪先上りになって、その場所全体が擂鉢形すりばちがたをしている。
動物園の一夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
ある時石川郡いしかわごおり市川いちかわ村の青田あおた丹頂たんちょうの鶴くだれるよし、御鳥見役おとりみやくより御鷹部屋おたかべや注進になり、若年寄わかどしよりより直接言上ごんじょうに及びければ、上様うえさまには御満悦ごまんえつ思召おぼしめされ、翌朝こく御供揃おともぞろい相済み
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
抱くばかりにしたのだが、余所目よそめには手負ておへるわしに、丹頂たんちょうつる掻掴かいつかまれたとも何ともたとふべき風情ふぜいではなかつた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
毒婦丹頂たんちょうのお鶴の妹で、綱吉つなきちめかけになり、海雲寺かいうんじの富籤で、一と役買って出たお勢。その後、お上の探索の手をのがれて、しばらく姿を見せなかった不思議な美女です。
「ありゃ東村山だろう、こちら、西村山のかたで、市へは初めてだが、丹頂たんちょうのおくめとはよく知っていなさる仲だ。おお、そういえば抜け買いの組はもうみんな来ているかね」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丹頂たんちょう姐御あねごも、元を思えば、近頃はまったく尾羽おはち枯らしたものです。藍気あいけのさめた浴衣ゆかたにさえ襟垢えりあかをつけている旅役者の残党に交じって、曲独楽きょくごまの稽古をやらなければならない境遇。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丹頂たんちょうのお鶴、御用だッ」
白きころもをつけた居士こじのすがたとみえたのは、はからざりき一丹頂たんちょう! まっ白なつばさをハタハタとひろげて、四人の上にをえがいていめぐり、あれよと見るまに有明けの月のかげをかすめて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丹頂たんちょうのお鶴、御用だッ」