不如帰ほととぎす)” の例文
不如帰ほととぎす」の生命は川島武夫と片岡浪子の八字によって永遠に生きているのじゃないかといったような気持になって来るのだから容易でない。
創作人物の名前について (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ゆき子は珍しさうに、坂道の両側の家々をのぞいて歩いた。不如帰ほととぎすで有名な伊香保と云ふところが、案外素朴そぼくで、如何にもロマンチックだつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
熱海に尾崎紅葉の「金色夜叉」の碑あり、逗子には「不如帰ほととぎす」の浪子不動が土地の名物として存在を主張している。
不如帰ほととぎす」を読んだり、造花の百合ゆりを眺めたりしながら、新派悲劇の活動写真の月夜の場面よりもサンティマンタアルな、芸術的感激にふけるのである。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すずめ雌雄しゆうを知らず不如帰ほととぎすの無慈悲を悟らずして、新しき神学説を蝶々ちょうちょうするも何ぞ。魚類の如き一として面白からぬはなく、うなぎの如き最も不可解なる生物である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ひとり坐幽篁裏ゆうこうのうちにざし弾琴きんをだんじて復長嘯またちょうしょうす深林しんりん人不知ひとしらず明月来めいげつきたりて相照あいてらす。ただ二十字のうちにゆう別乾坤べつけんこん建立こんりゅうしている。この乾坤の功徳くどくは「不如帰ほととぎす」や「金色夜叉こんじきやしゃ」の功徳ではない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
会津あいづ生れの山川捨松すてまつは十二歳(後の東大総長山川健次郎男の妹、大山いわお公の夫人、徳冨蘆花とくとみろかの小説「不如帰ほととぎす」では、浪子——本名信子さんといった女の後の母に当る人)
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
○四月、本郷座にて藤沢浅二郎が徳冨蘆花の小説「不如帰ほととぎす」を初めて脚色上演。大入りを占む。
明治演劇年表 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
破鏡の悲愁(「不如帰ほととぎす」など)貧苦病苦の悲愁(「筆屋幸兵衛」など)子供をかせのいわゆるお涙頂戴ちょうだいのスリル(「なさぬ仲」など)等、なかなかその種類は少なくない。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いまにして思えば、あの品のいい愁い顔は「不如帰ほととぎす」の女主人公を彷彿ほうふつさせるものがある。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
喜多村緑郎があり、深沢恒造がありその他門下各々おのおの英材が満ち充ちて役者に不足はなかったのだが脚本に全く欠乏していたのである、というのは、不如帰ほととぎすでもなし、乳姉妹でもなし
生前身後の事 (新字新仮名) / 中里介山(著)
百年の後には「金色夜叉こんじきやしゃ」でも「不如帰ほととぎす」でもやはり古典になってしまうであろう
生ける人形 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
不如帰ほととぎす』や『乳姉妹』をなすったってこと。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
不如帰ほととぎす」「藤村とうそん詩集」「松井須磨子まついすまこの一生」「新朝顔日記」「カルメン」「高い山から谷底見れば」——あとは婦人雑誌が七八冊あるばかりで、残念ながらおれの小説集などは
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
不如帰ほととぎすの浪子さんが千年も万年も生きたいなんて云ってるけれど、あまりに人の世を御ぞんじないと云うものだ。花は一年で枯れてゆくのに、人間は五十年も御長命だ。ああいやな事だ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「二十五の今日まで聞かず不如帰ほととぎす
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
不如帰ほととぎすではないかしら」
と同時にまたお君さんの眼にはまるで「不如帰ほととぎす」を読んだ時のような、感動の涙が浮んできた。この感動の涙をとおして見た、小川町、淡路町あわじちょう、須田町の往来が、いかに美しかったかは問うを待たない。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)